慧が名乗りを上げた。適任と言える。
万が一、術が解ける前に目を覚ましても、再び電流で眠らせておけばいい。
「わたしもここに残るわ」
決然と琴音は言った。
「わたしのせいでこんな大変なことになったんだし。もし学校へ行ったら、危険なこのふたりを呼んでしまうことになる。わたしが残れば、ふたりもここから動かないでしょ」
「琴音ちゃんのせいってわけじゃ────」
「それでもよ。望月が対処できなかったときの保険」
微笑んだ琴音に、慧が不服そうな表情を浮かべた。
「舐められたものだな。誰のお陰でいま全員無事だと思ってる」
「感謝はしてるわ。みんなにね」
仲がいいのか悪いのか分からないふたりではあるものの、意思は一致しているようだ。
見張り役を請け負った彼らは、大雅たちの術が解ける頃に登校することになった。
瑠奈の持っていたステッキは、小春が預かっておくことにした。
その場で解散した慧と琴音以外の面々は、一旦帰路についた。
小春は家の前まで来ると、パーカーに触れる。
「これ、蓮のだよね? 借りた覚えないんだけど……」
「あー……」
「でも、ありがとう。あったかかったよ」
「……おう」
蓮は差し出された自身のパーカーを受け取る。
何だか自分のものではないような気がして、くすぐったい気分になる。
「じゃあまたあとでね」
手を振りつつ家の中へ入っていった小春を見送ると、パーカーを抱きつつ蓮もきびすを返した。
◇
慧と琴音はそれぞれ反対側の石柱に背を預け、距離をとって向かい合うように座っていた。
「よかったの? 学年トップのあなたが授業サボって」
「問題ない。その程度の遅れならすぐに取り返せる」
その強気な言葉に微笑をたたえつつ、ココアを飲んだ。
彼が見張り役を買って出た真意は、雷撃魔法が有用であるためか、それとも当初から魔術師である事実を共有していた琴音に仲間意識や情が芽生えたためか。
一匹狼が悪いとは思わないけれど、少なくとも以前より彼は人に優しくなった。
仲間と関わるうち、そんな変化が起きていることに琴音は気づいていた。
以前までの慧なら、大雅はともかく瑠奈のことは躊躇なく殺していたはずだ。
それは、琴音にも同じことが言えた。
「運営側か……」
ふいに慧が呟く。
小春の言葉を受けてから、頭の中でずっと考えていたのだろう。



