絶対服従ということは抗えない命令であり、大雅の話しぶりから、命令されると身体が勝手に動くのだと想像がつく。
“琴音を殺せ”という命令において、居場所を知らずとも彼女のいる方向へ向かってしまうのだろうか。
もしそうだとしたら、隠れても意味はない。それこそひたすら逃げるしかない。
「────いや、今回の場合は関係ない」
慧が硬い声で告げる。
その視線の先には、街灯に照らされたふたつの人影があった。
大雅と瑠奈が、こちらへ歩んできている。
「げっ、もうかよ。つか“関係ない”って何だ?」
「最終的にこの高架下にみんなを集めるってこと、桐生は知ってたんじゃないか」
本来の意図でなくとも、この状況を作り出したのは大雅なのだ。
琴音とコンタクトをとり、事前に把握していたのだろう。
「そんなこといまはどうでもええ! どうすんねん、これ!」
「琴音ちゃんがこの状態じゃ逃げるのもすぐ限界だね……。応戦するしかないんじゃない?」
迫り来る大雅と瑠奈をその目に捉え、アリスと奏汰が言った。
小春は教室でそうしたように琴音を浮遊させて抱え、自身とともに空中に留まることでやり過ごそうかとも考えた。
けれど、それを12時間も続けていられるとは思えないし、大雅たちが地上にいるほかの仲間たちに手出ししないとも限らない。
飛んで逃げ回ったとしても、絶対的な命令に突き動かされているふたりは地の果てまで追ってくる。
小春が限界を迎えたとき、琴音を守る術がない。
奏汰の案ずるところは、そういうことかもしれなかった。
いまは彼女の異能があてにならない。
瞬間移動ができれば、逃げ回るのも容易なのに。
「悪ぃ……。みんな」
大雅は険しい面持ちで眉根に力を込めた。
こんなことしたくないのに、という切実な思いがひしひしと伝わってくる。
思い通りにならない身体は、勝手に琴音や仲間たちを敵と認識してしまう。
「あはは、やっぱ瀕死だ! 琴音ちゃーん、トドメを刺しにきたよ」
瑠奈はステッキをくるくると回し、楽しげに笑っていた。
彼女の場合は絶対服従の術によらず琴音をつけ狙うだろう。
小春は地面に膝をついたまま、琴音を背に庇った。
警戒を深めたほかの面々も臨戦態勢をとって前線で構える。



