「なかなかすばしっこいね。でも、反撃しないと勝てないよ!」
そんな挑発も取り合わず、琴音を抱えたまま机の上に乗った。
飛び移りながら助走をつけ、つま先から蹴りを入れて窓に飛び込む。
ガシャァアン! けたたましく甲高い音が響き、ガラスが散った。
亀裂を利用して窓を割り、外へ飛び出していく。
「な……っ!?」
予想外の事態に慌てた瑠奈は割れた窓に駆け寄り、下を覗き込む。
ここは3階だ。
下にはコンクリートが広がっており、飛び降りて無事でいられるとは思えない。
小春は瞬く間に落下していったものの、一瞬で高度を上げて浮かび上がる。
ばさ、と背中に真っ白な羽根が広がったかと思うと、夜の闇へ消えてしまった。
◇
「小春!」
高架下へと直行してきた小春は地面に降り立ち、そっと琴音を横たえた。
「無事だったんだな、よかった……」
「なあ、何が起きてるん?」
アリスがスマホのライトを点けると、あたりが白く照らされる。
琴音の青白い顔と唇の端や制服に染みた赤い血を見て、急速に不安が込み上げてきた。
「どうしよう……。このままで大丈夫なのかな? 死んじゃったりしないよね?」
「休めば元通りになる。それより落ち着いて状況を話せ。桐生の言葉も何なんだ」
「大雅くんが……律くんに記憶を書き換えられたみたいで。冬真くんに操られて、わたしたちを敵だと思い込んで動いてたの」
なかなか要領を得ないような説明になってしまいながらも懸命に紡ぐ。
「その大雅くんにわたしも操られて、みんなのことをばらばらにした……。自分が何を言ってたか、何をしたのかも全然覚えてないけど」
我に返ったときには、もう遅かった。
大雅が正常な記憶を取り戻したときも、琴音は既に追い詰められていた。
結果的に瑠奈の脅威は一旦脱したものの、自分の責任でもあるような気がしていたたまれない。
「小春、思い詰めんな。おまえが琴音を救ったんだから」
蓮は労るように言う。
それは紛れもない事実であり、自分を責める必要はどこにもない。
「桐生くんはどうなった?」
「分かんない。でも、テレパシーでも言ってた通り、まだ術は解けてないから操られてるはず……。瑠奈ともども瀬名さんを殺そうとしてる」
「記憶が戻っても身体が言うこと聞かんってわけやな。自分じゃどうしようもないから“逃げろ”ってか」
アリスが神妙な面持ちで言った。
「てか、絶対服従って……隠れとっても居場所バレるんか?」



