待ち構えていた瑠奈が現れたのかもしれない。
だとしたら、その身に危機が迫っている。
「……くそ、俺のせいだ」
迂闊だった。
あれほど警戒していたのに、いとも簡単に冬真の手に落ち、記憶を改竄されてしまうなんて。
「みんな、悪ぃ。俺のせいで琴音が死にかけてる。小春を操ってたのも俺だ。詳しく説明してる暇はねぇけど……」
再び顳顬に触れると、全員にそう伝える。
その間も足は意思に反して名花高校へ向かっていた。
否が応でも琴音のもとへ向かわされる。殺すために。
『いまから12時間、俺のことは信用しないでくれ』
────痛切な言葉を聞き、唇を噛み締めた小春は勢いよく空へ舞い上がった。
高度を上げ、羽根を使いながら素早く舞い進む。
(助けなきゃ……。わたししかいない)
仲間の全員が高架下にいるのなら、そして既に瑠奈が琴音に迫っているのなら、彼らがいまから向かっても間に合わない。
自分が行くしかないのだ。
その思いだけに突き動かされ、ひたすら夜空を飛び抜ける。
(助けるよ、今度はわたしが────)
◇
薄暗い教室の中で、吐血して蹲る琴音を見た瑠奈は得意気に笑った。
(殺れる。この状態なら、あたしにも……)
やはり大雅は賢い。運や偶然に委ねることなく、確実に目的を果たす手段を講じてくれた。
ここまで琴音を追い詰められたのも、ひとえに彼のお陰だろう。
「随分苦しそうだね、琴音ちゃん」
「瑠奈……」
精一杯睨みつけたものの、できる抵抗はその程度しかなかった。
手足に力が入らない。
しばらくは異能を使うこともできそうになかった。
「そういう、こと……。水無瀬さんを操ってたってことは、わざと“二度手間”を踏ませたのね……。わたしを、反動で弱らせるために……」
「そうだよ。そうとも知らず、せっせとご苦労さま」
にっこり微笑んで見せると、琴音の前に屈み込む。
「あたしを虚仮にしたお返しをしてあげる。誰に勝ち目がないって?」
立ち上がった瑠奈は眼光鋭く、ステッキの先を琴音に向けた。
「石にして……ばらばらに砕いてやる」
霞む視界で彼女を見上げた。
まさか、こんな形でゲームオーバーを迎えるとは思わなかった。
瑠奈ごときに殺られることになるなんて。
悔しいけれど、策に嵌まったのは自分自身だ。
その時点で負けだった。
「……っ」
琴音は絶望を覚悟し、目を閉じる。



