その返答に目を見張った琴音は困惑する。
「ちょっと待って。ばらばらに逃がした? それも水無瀬さんの提案?」
「そうだけど……」
小春がそんな提案をするだろうか。
わざわざ飛んで会いにいったのなら、なおさら不自然な判断に思える。
「わたしは桐生から全員を合流させろって言われたわ」
「あいつ、無事なのか?」
「一応ね。絶対服従させられてるみたいだけど。……それより手分けしたって、向井は何したの?」
「小春とあらかじめ示し合わせてから、奏汰とアリスに電話した」
大雅には通話という手段を止められた。
小春がそうしなかったということは、彼からそこまでは聞いていなかったのだろうか。
そもそも小春と大雅はいつ接触したのだろう。
散り散りにしたり、集めさせようとしたり、意図がまるで真逆だ。
話をしていたのなら、その点の統一がなされていないのはおかしい。二度手間でしかない。
はたと琴音はひらめき、顔を上げた。
「もしかしたら……水無瀬さんはもう、如月に操られてるのかも」
小春が通話を止めなかったのは、大雅を通して居場所を探るためだったのかもしれない。
「小春が!? ふざけんな、いつそんな隙があったって言うんだよ!」
「分からないわよ、如月の異能もまだ未知数だし。怒ってたって仕方ないでしょ」
「くそ……いますぐ殺してやる」
「ちょっと、冷静になってよ。頭を冷やして」
小春のことになると周りが見えなくなるのだろうか。迷惑な幼なじみがいたものだ。
憤慨する蓮をなだめつつ、琴音は言う。
「桐生の異能があてにならない以上、相手の居場所も分からないし無謀よ。水無瀬さんも、如月に操られてるならすぐに殺されたりしない。むしろ安心だわ」
その言葉に少しずつ落ち着きを取り戻したらしく、蓮はそれ以上は何も言わなかった。
「水無瀬さんが操られてるなら桐生に従っておくわ。彼の言う通り、全員固まってた方がいい。 見つけ次第、水無瀬さんも瞬間移動させて合流させる。それでいいわね?」
「……ああ」
勢いこそなくしたものの、今度はどこか落ち込んでいるようだった。
操作されている小春を目の前にしても、それを見抜けなかったことが悔しいのだ。
それでも、いまは琴音の言うことを信じて引き下がるほかない。
「全員を高架下に集めるわ」
「おう、アリスはもうそこにいるぞ」
「了解よ」
そう言った琴音が触れると、目の前から蓮が消えた。
────琴音はその要領で捜し出した慧や奏汰を高架下へと移動させる。
念のため病室にも赴き、陽斗の無事も確認した。
けれど、小春の姿はどこにもなかった。
当初の予定通り、それぞれを飛ばした琴音は最後に学校へ瞬間移動して戻った。
真っ暗な教室に佇むと、唐突に目眩を覚えてたたらを踏む。
「……っ」
思わず咳き込んだ。口からあふれた血が滴る。
割れるような頭痛と激しい動悸に立っていられなくなり、力なくその場に蹲ってしまう。
「はぁ……はぁ……」
浅く荒い呼吸が熱を持っているのが分かる。
うまく息を吸えない。心臓が軋む。肺も頭も関節も痛くて、苦しい。
『聞こえるか、琴音!』



