ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 その様を想像した琴音は怯んだ。
 純粋な敵よりその方がよほど精神的に来るものがあるし、それぞれの異能も(あなど)れない。

 大雅としては、単に仲間たちと固まられると手出しできないから離れて欲しいわけだが、彼女はそんなことを知る(よし)もない。

「だから離れろ。いいな」

「……ええ、分かった。みんなのことは高架下に集めるわ。そしたらわたしはひとりで学校に行く」

 その高架下は、琴音が新たな拠点として見つけ出した場所だった。いまはアリスがいる。

「おう。念のため言っとくけど、通話はすんなよ」

「どうして?」

「テレパシーで感知できるから。俺はいま、自由が効かねぇんだ。冬真に聞かれたら、おまえらの通話の内容を喋らされる」

 つまり、その気になれば盗聴のようなことができてしまうということだろう。

 テレパシー魔法の際限(さいげん)はどこにあるのだろう、と琴音は思わざるを得なかった。

 それほどまでに強いのなら、冬真の執着にも頷ける気がする。

「了解よ」

 逐一(ちくいち)移動して捜すしかなさそうだ。
 大雅に「気をつけて」と言い残し、琴音は姿を消した。

 全面的に信用してくれたみたいだ────陰から出た瑠奈は、満足気に歩み寄る。

「思い通り……。琴音ちゃんは何度も瞬間移動を繰り返すしかないね。身体がもつかなぁ」

 それこそが狙いなのだが、この短時間でその目的を達成するための仕込みを終え、起爆剤を作り上げた大雅には恐れ入ってしまう。

 これなら本当に琴音の異能(ちから)を封じられるかもしれない。
 無力な彼女なら、瑠奈にも殺せる。

「やることは分かってるよな」

「うん、大丈夫」

 全員を瞬間移動させた琴音が学校でひとりになったとき、待ち構えて瑠奈が手を下す。

 疲弊と反動でまともに動くこともできない琴音なんて、何の脅威でもない。

「なら、もう行ってろ。琴音が戻ってくるのを待ち伏せるんだ」

「分かった!」



     ◇



 まず瞬間移動した先は名花高校だった。
 教室を覗くと、暗闇に浮かび上がる明かりが見える。

「……向井?」

「ん? 琴音か」

 がたん、と音を立て、蓮は座っていた机から下りた。

「おまえも小春に言われてきたのか?」

「え? 何の話?」

 眉根を寄せ、訝しげに聞き返す。

「大雅の裏切りがバレて、全員が冬真に狙われてるって話」

「……それを水無瀬さんが?」

「ああ、大雅から聞いて急いできたって感じだった。だから俺と手分けしてみんなをばらばらに逃がしたんだ」