瑠奈は訝しげに首を傾げた。
操るにしても、蓮がそうしたように電話をかけさせる程度でよかったのではないだろうか。
わざわざ異能を使わせて大雅が死にかける必要があったのだろうか。
「小春を使えば蓮も動かせるからな。あと、直接出向かなきゃ動いてくれなさそうな奴もいるし」
「そっか。でも、そんなに苦しむなら適当に理由つけてテレパシーで動かせばよかったんじゃない?」
「いや……俺の異能はいま使えねぇ状態だって琴音に思わせときたいから」
「何で?」
「“自分で動くしかねぇ”って思わせるため」
これから大雅は、あえてばらばらにした仲間たちを、琴音自身に異能で迎えにいかせようとしている。
けれど、テレパシーがあればわざわざ琴音が出向く必要がなくなってしまう。
だからこそ、彼女にはそう思わせておかなければならないのだ。
続けて琴音の家へ向かった。
既に門前に彼女の姿があることに気づき、瑠奈は慌てて陰に隠れる。
先ほどの大雅のテレパシーから、ただならぬ事態だと察したのだろう。
「どうなったの? 随分疲れてるみたいだけど、何があったの?」
「それが……いま、俺も律も瑠奈も冬真に絶対服従させられてる。だからテレパシーも実質無効化状態。明日の昼までは使えねぇ」
澱みなく答える大雅に、はっとした琴音は眉を寄せた。
「じゃあ、さっきの連絡のあと────」
「ああ、俺は隙を見て逃げ出したんだ。これだけは伝えねぇとと思って。……けど、逃げきれねぇだろーな」
淡々と嘘をついたが、琴音の瞳は十分揺らいだ。
「悪ぃ、もうあれこれ話してる時間はねぇ。冬真は律や瑠奈を、小春たちのもとに送ってた。“逃げろ”ってぎりぎり伝えたから……たぶんどっかに散ってるはずだ。俺のテレパシーは使えねぇから、おまえの異能で安全な場所に逃がしてやってくれねぇか?」
「それは構わないけど、合流させた方がいいの? このままばらばらにいるのとどっちがいいのか……」
冬真は琴音やその仲間の顔までは知らない。
散っていれば、もし見つかったとしても全員がまとめて彼の駒にされることはないだろう。
「一緒にいた方がいいと思うぞ。多勢に無勢だろ」
「それもそうね……。分かったわ」
散り散りにした張本人とは思えない台詞だった。
瑠奈は彼の演技力と機転に圧倒されながら、成り行きを見守り続ける。
「でも、逃げたってどこに?」
「分かんねぇけど……学校とか河川敷とか、おまえが思いつく限り、知る限りの場所に行って捜してくれ。全員揃ったらおまえは離れろ」
「そうね、わたしがいたらみんなが危険に晒される」
「それもあるけど、あいつらが冬真に操られたら、全員おまえに牙剥くぞ」



