放課後、小春たちは病院へ赴き、緊急搬送された陽斗を見舞った。
医師によれば、発見されたのは路上だったが、溺水状態だったそうだ。
現在も意識は回復していない。
「魔術師の仕業だよな」
「……でしょうね。路上で溺水なんてありえない」
確かめるような蓮の言葉に琴音は頷く。
この場にいる全員が同意見だった。
「溺れたってことは、前に陽斗くんが言ってた人が怪しいかな? 早坂瑚太郎くん」
小春は真面目な声色で言った。
水魔法のコピー元であるという彼が、自ずと犯人候補の筆頭となるだろう。
「そうだろうな。単独かどうかは分からないが」
慧が頷くと、奏汰は首を傾げて尋ねる。
「それって、早坂が如月冬真たちとも関係あるかもってこと?」
「その可能性も当然ある」
「関係ないとしたら、あっちからもこっちからも狙われて大変だな」
「……他人事じゃないよ、蓮」
肩を竦めた蓮に奏汰は苦い表情を浮かべた。
慧も謹厳な面持ちでメガネを押し上げる。
「如月の手先だとしたら、桐生は何故言わなかったんだ? ……もしや、桐生はまだ如月と切れてないんじゃないか」
二重スパイを疑った慧だったが、蓮は反論した。
「いや、それにしては喋り過ぎだろ」
端的かつ妥当な言葉だった。
大雅は自身や冬真、律の魔法の全容だけでなく、冬真の目的まで包み隠さず打ち明けていた。
もともと冬真への忠心もないに等しかったのだ。
そんな彼が冬真に肩入れするとは考えにくい。
「早坂が如月の手先と決まったわけじゃないしね」
「瑚太郎くんは、まったく関係のない、第三者の魔術師かもしれない」
琴音に小春が続いた。
陽斗が襲撃されたのがこのタイミングだったから、結び付けてしまうだけかもしれない。
小春は顳顬に人差し指を当てた。
「大雅くん。ちょっと聞いてもいい?」
全員に共有しておきたい情報だったため、小春は声に出しながら呼びかけた。
程なくして大雅から返答があった。
『どうした?』
「早坂瑚太郎くんって知ってる? 陽斗くんを襲ったかもしれない魔術師なんだけど、もしかしたら、冬真くんの仲間なのかなって」
『いや……俺の知る限り、そんな奴はいねぇな。ただ────』
頭の中に響いていた声が一旦途切れた。小春は黙って続きを待つ。
『ちょうどいいから、昨日言った“もう一人”……そいつについて説明しとく。全員聞けよ』
大雅は小春と一対一でのやり取りから、全員にテレパシーを送るように切り替えた。
ここにいる面々と、この場にいないアリスにも大雅の声が届く。
『そいつの名前は“ヨル”。当然それは通称だけど、本名も魔法も分かんねぇんだ』
それを聞いた全員の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
蓮が真っ先に疑問をぶつける。
「何で? 目合わせれば読み取れるんじゃなかったか?」
『ああ、でもそいつに関してはテレパシーを使っても何も分かんなかった』
ますます意味が分からない。
各々が思わず視線を交わす。
『普通の人や魔術師は、目を合わせたときに見える頭の中が明るいんだ。でも、ヨルの頭の中は真っ暗で何も見えなかった。マジで、それこそ真夜中みたいに』