ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 蓮の言葉に瑠奈はぎくりとした。

 正論だ。わざわざ小春が飛び回らなくても、大雅なら一瞬で全員とコンタクトをとれる。

 けれど、瑠奈とは対照的に当の本人は泰然自若(たいぜんじじゃく)としていた。

「たぶん、もう冬真くんに操られてると思う……」

「そっか、裏切りがバレたんだな。無事だといいけど」

 案ずるように言うと、蓮は続けた。

「俺もみんなに電話してみる。分担しようぜ。ばらばらになるように、先に決めとこう」

 その申し出は大雅にとってもありがたいものであり、何より計算通りのものだった。

 小春を操作しながらひとりひとりの家を回っていたら、とても身体がもたない。反動に耐えきれない。

 かと言ってテレパシーを使うわけにもいかないため、蓮の提案は都合がいい。

 そして、小春を操ったのには蓮をそのように動かす意図もあった。

「分かった。じゃあ────」

 かくして、小春と蓮は動き出した。
 小春は羽根を羽ばたかせながら高速で夜空を舞っていく。

 それを見届けた大雅は、額を押さえながらその場に屈み込んだ。

「大丈夫?」

「ああ……ちょっと疲れただけだ」

 頭痛に始まった反動は、さらに激しい動悸(どうき)や息切れを連れてきた。

 脈打つたびに心臓が悲鳴を上げ、呼吸するたびに胸骨が軋むような気がする。

 大雅が立ち止まっても、小春が異能を使い続けている限り、身体はどんどん反動に(むしば)まれていく。

 ────それでも容赦のない反動に(あらが)いながら、何とか事を成し遂げた。

 蓮は名花高校、奏汰は自宅、動かせない陽斗はそのまま病室、慧は河川敷の橋の下、アリスは高架下と、すべて琴音が知っている場所にそれぞれを足止めしておく。

「う……っ」

 ふいに咳き込んだ大雅は、とっさに口元を押さえた。
 てのひらに血が広がって、指の隙間から滴り落ちる。

 それを見た瑠奈は小さく悲鳴を上げた。

「ほ、本当に大丈夫なの?」

「……ああ」

 浅い呼吸の大雅は頷きつつ、蒼白な顔でそばにあった塀に背を預ける。

 目を閉じると、小春に飛ばしていたテレパシーを解除して操作を解いた。

 1分と経たずに呼吸が正常に戻っていく。心拍も緩やかに落ち着いていった。

「全員ばらばらにするのはいちいち琴音ちゃんに魔法を使わせるためだとして……何で小春ちゃんを操って移動させたの?」