「何したの……?」
「言ってなかったな。俺も人を操れるんだよ」
「えっ!?」
「冬真の傀儡とはちょっとちがうぞ。あいつの場合、傀儡には意識がある。操られてる間の記憶もある。ただ自由が効かない操り人形になるんだ」
目も見えているし耳も聞こえているのに、言葉も行動も思い通りにならないのだ。
「俺の場合、操られてる奴には意識も記憶もなくなる。当然、操られてる間だけだけど」
大雅による操作では、操られている本人の目と耳は塞がっている状態になるわけだ。
また、能力の応用という範囲であるため、かなりの反動が伴った。
特に、操りながら彼または彼女が異能を使用した際に最も大きくダメージを受ける。
「そんなことまでできたんだ……」
「まあな。あんまのんびりしてると俺の身体がもたねぇ、急ぐぞ」
小春は蓮の家の前で足を止めた。
大雅たちは付近に潜み、状況を見守る。
彼女を操って蓮に電話をかけさせると、応じた彼が飛び出してきた。
「小春、こんな時間にどうした? そんな格好で……」
「来て。冬真くんがみんなの家を特定して狙ってるって」
「え?」
小春の一挙一動、一言一句は、すべて大雅が操作しているものだったけれど、蓮に疑う様子はない。
「大雅くんから、急いで逃げろって……!」
「待てよ、逃げるっつってもどこに?」
「分かんないけど、ばらばらになった方がいいと思う。蓮は学校に行って」
「おまえはどうすんだよ」
「わたしは飛びながらみんなに知らせて、それぞれ安全なところに連れていく」
非常事態において、いかにも小春が言いそうな台詞だ。瑠奈はそう思った。
「待て、俺も一緒に……」
「同時に飛ばせるのはひとりだけなの。わたしなら大丈夫だから」
小春は自身の異能の全容を知らないかもしれないが、大雅はテレパシーにより把握していた。
彼女の異能は自身だけでなく、他者を浮遊させることもできる。
その場合、高度10メートル未満までという縛りはあるものの、術者が触れていればそれ以上も到達可能だ。
「じゃあ、せめてこれ着とけ」
羽織っていたパーカーを脱ぎ、華奢なその肩にかけた。
肌寒い夜に心もとない気もするけれど、ないよりはましだろう。
「ありがとう」
「……おう」
蓮は頷きつつ、小春にパーカーのフードを被せた。
こうしておけば、誰かに見られるリスクも少しは下げられる。
「なあ、大雅はどうした? あいつなら一斉に呼びかけられるはずだろ」



