嬉々とした瑠奈だったものの、大雅はふいに方向転換した。
「あれ、どこ行くの? 琴音ちゃん家ってそっち?」
「いや、逆。直接相見える前にやることがある」
「えっ?」
「じゃなきゃ二の舞になる。こっちが手出しする前に瞬間移動させられて終わり」
瑠奈ははっとした。河川敷でのことを思い出す。
すっかり油断して警戒が薄れていた。
いくら居場所を特定しても、彼女には一瞬で姿を眩ませる術があるのだ。
「おまえ……同じ轍は踏まないとか言っといて無計画なのかよ」
「だって! じゃあ、どうすれば────」
「弱点を考えろ。あの類は体力消費も激しいし、肉体への負荷もでかい。だから……人質を取って、短時間のうちに連続で使わせる」
まさに理にかなった策だと瑠奈も思った。
それなら、確かに反動によって無力化できる。
「人質って……琴音ちゃんの仲間?」
「ああ、俺は全員把握してる。あいつの瞬間移動を、俺たちじゃなく仲間に向けて使わせるんだ」
どうやって、と尋ねようとして唐突にひらめいた。
「そっか! あたしたちから逃がすために、ってことだね」
「そういうことだ」
琴音には既に不安の種を植えつけている。布石は済んだ。
大雅のことも信用しているため、何ら疑うことなく言う通りに動いてくれるはずだ。
「行くぞ。準備する」
先導する大雅について歩けば、たどり着いたのは小春の家だった。
瑠奈が死角に隠れると、大雅は門前からテレパシーを送る。
「起きてるか? いま、おまえの家の前にいる。ちょっと出てこられるか?」
小春は突然頭の中に響いてきた声に驚いたものの、眠りにつく前でよかった、と安堵した。
わざわざ家まで来るなんて、よほどの急用かもしれない。
部屋着姿であることに気が引けたものの、待たせるわけにもいかず、そっと階段を下りると玄関のドアを開けた。
門前に大雅が立っているのが見えて、急いで門を開ける。
「どうしたの? こんな夜中に……」
戸惑う小春に躊躇なく手を伸ばした。
その腕を掴むと、じっと双眸を見据える。
驚いた小春はまじまじと大雅を凝視した。
「なに……!?」
混乱する小春だけれど、傍から見ていた瑠奈もまったく同じ気持ちだった。
何のつもりなのだろう?
そうこうしているうちに、見張っていた小春の瞳から光が失われていくのが分かった。
瑠奈はますます驚愕する。
(何が起きたの……?)
「おい、もういいぞ。出てこい」
そう呼びかけられ、はっとした瑠奈は恐る恐るふたりのもとへ寄る。
立ち尽くす小春からは意思や感情を感じられない。
まるで、冬真による傀儡のような────。



