「彼、あなたのお仲間?」

 琴音は腕を組み、瑠奈を見据えた。

「残念だったわね。何をしようと私には敵わないわよ」

 瑠奈は恐怖で肩を震わせた。

 あれほどに強い魔法を持つ大雅でさえ、こうもあっけなく一瞬でやられてしまうとは────。

「……っ」

 数歩後ずさった瑠奈は、踵を返すと一気に駆け出した。



 琴音から逃げるように走り続け、追ってきていないことを確認すると立ち止まる。

 スマホを取り出し、慌てて冬真に連絡を取った。

「もしもし! 大雅くんが何処かに飛ばされちゃった……! どうしよう、もしかしたらもう……」

 上手く息を吸えず、声が震えた。

 琴音を倒せるかもしれない、などという希望は無惨にも打ち砕かれた。



*



 瑠奈が去ったのを確かめた琴音は、再び物陰に入り小春と蓮をそれぞれ河川敷へ飛ばすと、自身もすぐさま移動した。

 小春は突然目の前の景色が変わったことに、はっとしながら周囲を見回した。

「……来たか」

 声のした方を見ると、橋の下に先ほどの男子が佇んでいた。

 壁から身を起こし、小春たちの方へ歩み寄る。

「どうだ、撒いたか?」

「……ええ、とりあえずは心配ないわ」

 琴音は頭痛を堪えながら答えた。

 どちらかと言えば逃げたのは瑠奈の方だが、少なくとも琴音たちが今、大雅と接触しているとは夢にも思わないだろう。

「悪ぃな、合わせて貰って。助かった」

「どういうことなの? あなたはいったい……?」

 小春が戸惑いを顕にすると、大雅は両手をポケットに突っ込んだまま、ぶっきらぼうに答える。

「俺は桐生大雅。テレパシー魔法の魔術師だ」

 琴音の名前や魔法を言い当てた時点で、何らかの力を持っていることは推測出来た。

 テレパシーならば納得だ。

「お前らのことは別に言わなくていい」

「え?」

「三秒だけ黙ってくれ」

 大雅は小春、蓮と順に目を合わせた。

「水無瀬小春に向井蓮。……ふーん、飛行と火炎ね」

「凄ぇな、テレパシーって。ぜんぶ分かるのか?」

「その気になればな」

 小春ははたと気が付いた。

 魔術師を見分けられる魔法とは、このテレパシー魔法のことなのだろう。

 大雅は昨日瑠奈にしたのと同様の、能力についての説明を三人にもしておいた。

 それを聞き終えた琴音は、冷静そのものな態度で大雅を見やる。

「……それで、そろそろ事情を話して貰おうかしら」

 瑠奈とはどういう繋がりで、どんな意図でこちら側に接触してきたのだろう。

「お前らに折り入って頼みがある」

「……何だ?」

「俺も、お前たちの側に入れて欲しい」

 思わず小春は蓮と顔を見合わせた。

 琴音は吟味するように腕を組む。

「俺さ、今基本的に二人の魔術師と行動してんだ。そこに瑠奈ともう一人、別の魔術師も一応仲間なんだけど」

 訳ありで気まぐれなもう一人のことは、あまり信用に値しないのだが。

 大雅の言葉に琴音は眉を寄せた。

「仲間がいるのに、私たちの仲間になりたいの?」