こちらを見下ろす冬真に、そっと顎をすくわれる。
すぐさま顔を背けたが、今度は強引に掴まれて無理やり視線が交わった。
抵抗も虚しく、睨み返すうちに5秒が経過してしまう。
それはすなわち、大雅にも絶対服従の術がかかったことを意味していた。
「……っ」
呆然として力が抜ける。
無意味となった抵抗をやめると、傀儡の律は腕をほどいた。
「よしよし、いい子だね……。そのままじっとしてて。逆心も忘れさせてあげるから」
律が大雅の頭に触れた。
何をされるのか見当がついても、冬真の言葉通り身体が動かない。
「痛……っ!」
頭を締めつける頭痛に思わず顔をしかめる。
視界が揺れるような感覚が続いた。
脳裏に浮かぶ記憶の数々がぐにゃりと歪んでいく────。
「瑠奈ちゃん、石化を解いてあげて」
「え……? あ、うん」
目の前の光景に怯える瑠奈だったが、意思とは関係なく、気づけば冬真の言うことに従っていた。
もう一度ステッキを振ると、剥がれるように石が溶け去り、大雅の脚が元に戻っていく。
ふら、とバランスを崩した彼は膝から地面に崩れ落ちる。
「う……あれ? 俺────」
状況に困惑しながら、ずきんと痛んだ頭を押さえた。
(何してたんだったっけ……?)
「さあ、ふたりとも。よく聞いて」
冬真はにこやかに大雅と瑠奈を見やった。
この夜の闇をすべて吸い取ってしまったかのように、重く冷たい瞳で。
「瀬名琴音を殺してこい」
解放された律は、校舎を出て歩いていくふたりの様子を上から眺めて腕を組んだ。
「……なるほど、胡桃沢の申し出をすんなり聞き入れた理由はこれだったか」
最初から大雅のことも操作し、琴音殺害に向かわせるつもりだったのだ。
愚かにも大雅は、自分だけが魂胆に気づき、冬真たちを欺いていると思い込んでいた。
だからこそいつも、最終的に屈する羽目になる。
────実のところ、こうして律が彼の記憶を操作するのは今回が初めてではない。
仲間まで作っていたのはいままでにないことだったが、そこに冬真の狙う琴音が含まれているのはむしろ好都合と言えた。
「如月……。いつまでこんな鼬ごっこを続ける気だ? 必要なのはあいつじゃなくテレパシーだろ。あと戻りできなくなる前に、桐生を殺してその能力を物にしておくべきだ」



