放課後、瑠奈はいち早く教室を出て校門前へと向かった。
既に大雅の姿があり、制服の異なる彼は人の群れの中でもすぐに発見出来た。
「早いね、大雅くん」
「途中で抜け出して来たからな」
しっかり鞄を持っているところを見れば、戻るつもりもなく早退してきたようだ。
「で、例の奴はまだか?」
瑠奈が教室を出たタイミングで琴音も立ち上がっていた。そろそろ来るはずだ。
そう答えようとした際、昇降口から小春と蓮の二人が出てきた。
「あ、あの二人」
瑠奈の指した方向に大雅も目を向ける。魔術師なのは一目見て分かった。
「来た」
続けざまに瑠奈は呟いた。二人の後ろに琴音の姿があった。
「……あいつか」
「うん、その前にいる二人がたぶん仲間」
瑠奈の言葉に大雅は頷く。それから瑠奈に向き直った。
「お前はちょっと下がって待ってろ」
琴音に敵意を向けられている瑠奈が同行すると、不必要な警戒心を煽ってしまう。
面識のない大雅一人の方が滞りなく目的を果たせるだろう。
瑠奈は「分かった」と頷き、大雅の言う通り少し距離を取った。
そこで身を潜めつつ様子を窺う。
小春たちが校門を過ぎると、大雅は行く手を阻むように立った。
「……?」
琴音は不審がりながら、訝しむ小春と蓮の前に歩み出て、庇うように立つ。
「星ヶ丘の人が何か用?」
琴音の鋭い声色にも大雅は一切怯まなかった。
三秒間の沈黙を経て、相手の情報を読み取る。
「瀬名琴音。それとその二人、ちょっと面貸してくれ」
何故名前を知られているのか、琴音も小春たちも瞠目した。
琴音はしかし、もしやアリスの仕業かもしれない、と直感的に思い至った。
魔術師相手に情報の取り引きをしている可能性が想定される。
瑠奈は聞き耳を立て、じっと動向を窺っていた。
「ちょっと待て。まず、お前は誰なんだよ?」
「そうよ。ついて来いって言うなら、素性を明かして貰わなくちゃ」
蓮と琴音が口々に言ったとき、大雅は素早く人差し指を唇の前に立てた。
「俺を瞬間移動させて、お前らも同じ場所へ来てくれ。近くで胡桃沢瑠奈って女が見張ってる。急げ」
大雅は瑠奈に聞かれないよう声を落として言った。
三人が三人とも、思わぬ言葉に驚愕したものの、一番早く立ち直った琴音が「こっちよ」と全員を誘導した。
木々と茂みにより人目を避けられる場所で立ち止まり、すぐさま大雅に触れた。
目の前から大雅の姿が消え、小春と蓮はさらに驚いてしまう。
「な、何がどうなって……」
彼は何者で、あの発言の意図は何なのだろう?
動揺を隠せない小春が尋ねると、琴音は謹厳な面持ちで二人に向き直る。
「少しだけ待って。瑠奈がいなくなったら私たちも移動する」
「説明になってねぇよ……。あいつ、何なんだよ? “瞬間移動させろ”なんて意味分かんねぇこと────」
「それは後よ。いいから、普通にして」
琴音は物陰から出ると、周囲を見回した。
慌てて追ってきたのだろう蒼白の瑠奈が、目を見張りながら琴音を見つめていた。
「そんな……」
返り討ちに遭ってしまったのだろうか。
瑠奈は大雅の姿が消えたことに気付き、絶望的な気持ちになった。