「だけど不覚だったなぁ。今回用があったのはお仲間の方なのに、瀬名琴音に邪魔されるとはね」
冬真は律の声を借りて呟く。
「邪魔だなぁ。……やっぱり殺すしかないか、先に」
その言葉に大雅の表情が険しくなった。
「仲間が何人いようが、そいつらがどんな異能持ってようが、操っちゃえばいいだけ。瀬名琴音を殺して、残りはみんな僕の駒にしよう」
嬉々として冬真が言う。
笑っていても、その瞳は冷たく寒々しい。
「……待って」
真剣な声色で瑠奈は制した。
「琴音ちゃんには借りがある。殺るなら、あたしに殺らせて」
自身を虚仮にした琴音への恨みは、日に日に増していく一方だ。
この手で捻り潰さなければ気が済まない。
「大丈夫? また飛ばされて終わるんじゃない?」
「だ、大丈夫! 同じ徹は踏まないから!」
意気込んで懇願すると、少しの間黙っていた冬真はやがて頷いた。
「……分かった。まあ、そこまで言うならきみに任せるよ」
大して期待していないような、熱のない言い方だったけれど、瑠奈は顔を綻ばせた。
しかし、どういうつもりなのだろう。
大雅は思案した。
成功するか失敗するか、おおよそ後者の可能性が高そうなのに、なぜ瑠奈に機会を与えるのだろう。
失敗してくれるならそれに越したことはないが。
隙を見て少し離れると、顳顬に人差し指を当てる。
『みんな、聞け。瑠奈が琴音の命を狙ってる。気をつけろよ、ほかの奴も冬真に操られる危険がある』
仲間たちに迫る危機を伝えた瞬間、ぽん、と肩に手を置かれた。
「大雅」
冬真だ。はっと息をのむと、心臓が跳ねる。
「誰に何を伝えたの?」
「……!」
振り向かない大雅の正面に回り込んだ。
微笑みは氷のように冷淡で、眼差しは射るように鋭い。
さして驚いていないところを見ると、勘づかれていたのかもしれない。
「悪い子だね。僕に逆らうつもり?」
ふいにその顔から笑みが消えたかと思うと、律を介して「瑠奈」と呼びかける。
「大雅の脚を固めろ」
瑠奈は戸惑うそぶりを見せたものの、ほとんど反射のようにステッキを振っていた。
逃げ損ねた大雅の両脚がみるみる石化し、その場から動けなくなる。
「くそ……っ」
どうやら、彼女は既に絶対服従の術をかけられているようだ。
音もなく歩み寄ってきた律が、大雅の両腕を羽交い締めにした。
「離せ!」
「嫌でも従わせてあげる。さあ、目を逸らさず僕を見ろ」



