瑚太郎は呟く。
その先を口にはしなかったものの、何をひらめいたかはすぐに見当がつく。
蓮が警戒の色を深めると、予想に反して彼は穏やかに笑った。
「そういうことなら大丈夫。僕は蓮くんも、みんなのことも襲わないから。もちろん危ないときには助ける。力になれるかは分かんないけど……」
そんな瑚太郎の言葉にほっとした小春が口を開こうとすると、それを阻むように慧が「いや」と言った。
「現状、おまえは信用できない。口だけなら何とでも言える」
冷淡に突き放した慧の“信用”という言葉にはっとする。
大雅がそう言っていたのをすっかり失念していた。
「あ、そうだよね。……ごめんね」
申し訳なさそうに俯いた瑚太郎は眉を下げる。
慧の言い分はきっと正しいのだろうけれど、小春は何だか心が痛むような気がした。
彼だって、悪意があって嘘をついていると決まったわけじゃないのに。
「とにかく、早坂の処遇についてはあいつと会わせてから決める。それでいいか?」
慧はあえて大雅の名を伏せた。
瑚太郎が“黒”なら、同じ学校ということもあり、大雅を特定し次第襲撃に向かうかもしれない。
「そうね、賛成よ」
琴音は頷いた。ほかの面々からも反論は出ない。
けれど、小春の心には再び靄が広がっていた。
結果的に瑚太郎が嘘をついていたとして、陽斗を襲ったのも彼だと判明したら、そのときはどうするつもりなのだろう。
以前、気絶した陽斗を「殺せ」と言った慧の冷酷さを思い出す。
同じ選択をするつもりかもしれない。
(それでいいのかな……?)
俯いた瑚太郎の憂うような表情が、小春には強く気にかかった。
◇
夜が更け、影のような灰色の雲が月を半分覆い隠す。
星ヶ丘高校の屋上で、大雅の無事を知った瑠奈はほっとしながら目に涙を滲ませた。
「よかった……死んじゃったかと思った。どこに瞬間移動させられたの? 大丈夫?」
「ああ、どっかの路地裏。マップ見て帰ってきた」
淡々と嘘をつくけれど、それぞれに疑うそぶりはない。
「でもひどいよ、ふたりとも。大雅くんの無事を知ってたなら教えてくれてもいいじゃん。あたしのせいかもってずっと怖かったのに……」
冬真は苦笑し、傀儡の律が言葉を紡ぐ。
「ごめんごめん。僕は一緒の学校だからいち早く知れたってだけだし、別に隠してるつもりもなかったよ」
大雅は目を細め、彼を見据えた。……嘘だ。
連絡を受けてすぐにテレパシーで無事を確認してきたし、瑠奈にその事実を伝えなかったのもわざとだ。
結局のところ、冬真は根本の部分では瑠奈を信用していない。
彼女が琴音と共謀し、大雅を潰そうとした線も追っていたのだろう。



