どうやら大雅が彼と会ったのは、その一度きりのようだった。
────陽斗以上の戦闘狂で、夜な夜な魔術師を殺して回っていると冬真から聞いている。
ただし、その目的は異能の奪取ではなく、単純な殺し。
その上、性格は粗暴で短気。そして気まぐれで自分勝手。
冬真も手を焼いているようだが、現状は戦闘要員として役に立つため生かしているようだ。
『……でも、たぶん冬真たちはそいつの素性も異能も知ってると思う』
いつも真っ先に調べさせるくせに、彼のことは“分からない”で通ってきているのだから。
把握しているからこそ生かしているのだろう。
『瑚太郎だけじゃなく、そいつにも警戒してくれ』
「ああ、分かった」
「……ねぇ、とりあえず早坂に接触してみるのはどう?」
おもむろに琴音が提案した。
「早坂のことなら探れるんじゃない?」
陽斗から瑚太郎の素性は聞いているため、会うことも難しくはないだろう。
「どうするの? もう放課後だし帰っちゃってるかも」
「簡単だろ」
毅然と断言した慧は陽斗の荷物の中からスマホを取り出すと、勝手にロックを解除してしまった。
「おいおい……」
「これで呼び出す。その反応も見たいしな」
蓮の抗議に構わず、メッセージアプリから瑚太郎に連絡を入れる。
『……探るのはいいけど、安易に信用すんなよ。俺が見るまでは』
たとえば瑚太郎が欺こうと嘘をついても、大雅にだけは通用しない。言わば保険だ。
「ああ、分かってる。頼むぞ」
『おう。近いうちにな』
────メッセージを送ってからほどなく、病室の扉が控えめにノックされた。
来た。誰もが察し、緊迫した空気が流れる。
「入っていいぞ」
あっけらかんと蓮は言った。
戸惑うように少し間が空いてから、扉がスライドする。
ひとりの男子高校生が姿を見せた。
「あれ……? えと」
ぱちぱちと瞬きを繰り返し、瑚太郎はこの場にいる面々を見やった。
目を閉じたままの陽斗に気がつくと、困惑したように眉を寄せる。
「きみたちは誰? 僕、陽斗から連絡もらったんだけど……。意識、戻ったはずじゃ────」
「しらを切るつもりかしら。彼をこんなふうにしたのは、紛れもなくあなたじゃない」
「ちょっと待って。どういうこと? 陽斗は事故って聞いてるけどちがうの? 僕が何かしたって……?」
うろたえる瑚太郎の様子に、小春は思わず蓮と視線を交わした。
思っていたのとはかなり印象がちがう。
見るからに気弱で臆病そうに見えるけれど、本当に陽斗を襲った魔術師なのだろうか。
生き永らえた陽斗にトドメを刺しにきたようには、さすがに見えない。



