放課後を待って、小春たちは病院へ向かった。
 昨夜、緊急搬送されたという陽斗を見舞う。

 医師によると、発見されたのは路上だったものの溺水(できすい)状態だったそうだ。
 現在も意識は回復していない。

「魔術師の仕業だよな」

「……でしょうね。路上で溺水なんてありえない」

 この場にいる誰もが同意見だった。

「溺れたってことは、前に陽斗くんが言ってた人が怪しいかな……? 早坂瑚太郎くん」

 小春は真面目な声色で言った。
 水魔法のコピー元であるという彼が、自ずと犯人候補の筆頭(ひっとう)になるだろう。

「そうだろうな。単独かどうかは分からないが」

 慧が頷くと、奏汰は首を傾げて尋ねる。

「それって、早坂くんが如月冬真たちとも関係あるかもってこと?」

「その可能性も当然ある。だが、如月の手先だとしたら、桐生はなぜ言わなかったんだ? もしかすると、あいつはまだ如月と切れてないのかも」

「いや、それにしては喋りすぎだろ」

 大雅はそれぞれの異能の全容だけでなく、冬真の目的まで包み隠さず打ち明けていた。

 もともと冬真への義理もないに等しかったのだ。
 そんな彼が肩入れしているとは考えにくい。

「早坂が如月の手先と決まったわけじゃないしね」

 それぞれの言葉を受け、ふと小春は顳顬に人差し指を当てた。

「大雅くん。ちょっと聞いてもいい?」

『どうした?』

「早坂瑚太郎くんって知ってる? 陽斗くんを襲ったかもしれない魔術師なんだけど、もしかしたら冬真くんの仲間なのかなって」

『いや……俺の知る限り、そんな奴はいねぇな。ただ────』

 頭の中に響いていた声が一旦途切れた。小春は黙って続きを待つ。

『ちょうどいいから、昨日言った“もうひとり”……そいつについて説明しとく。全員聞けよ。……っつっても、そいつの素性は何も分かんねぇ。本名も異能も』

 それを聞いた全員の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
 蓮が真っ先に疑問をぶつける。

「何で? 目合わせれば読み取れるんじゃなかったか?」

『ああ、でもそいつに関してはテレパシーを使っても何も分かんなかった』

「どういうこと……?」

『普通の人や魔術師は、目を合わせたときに見える頭の中が明るいんだ。でも、そいつの頭の中は真夜中みたいに真っ暗で、何も見えなかった』

 説明している大雅自身も、それがどういうことなのか、なぜなのかが分からず困惑しているのが窺える。

『前に1回会ったときにテレパシー繋げたけど、夜が明けたらもう切断されて連絡がとれなくなってた。こんな奴、ほかに見たことねぇよ』