いつものように蓮と登校し、小春は教室へ入った。

 何気なく瑠奈に目をやる。琴音に助けられて以降は特に何も仕掛けてこない。

 普段なら友だちと話している瑠奈だが、今日は一人で黙って席についていた。

 顔色が悪く、何処か冷静さを失ったように余裕のない表情を浮かべている。

「……どうしたんだろう?」

「瑠奈か? さぁな、何かやらかしたんだろ。とうとうしくって、魔術師じゃない奴でも殺したか?」

 蓮は瑠奈を一瞥すると言った。

「何にしても放っとこうぜ。下手に関わって襲われたんじゃ堪らねぇよ」

 小春は瑠奈を見やる。

 思い詰めたような顔が気にかかったが、またしても蓮の言うことを無視する勇気はなかった。

 二の舞になったら、今度こそ皆に申し訳が立たない。



 何事もなく昼休みを迎え、四人はいつものように屋上へ集った。

 フルーツをつまみながら、琴音が訝しげに眉を寄せる。

「変だったわよね、瑠奈の様子。何かにひどく怯えてた」

 昨日の琴音の忠告に恐れをなしているわけでは、さすがにないだろうに。

「うんうん、それな。あたしも見とって思ったんよなー」

 不意に聞き慣れない声がした。

 全員が驚愕に動きを止め、思わず視線を交わす。

 誰だろう。周囲を見回しても誰もいない。

「ここや、ここ。あ、小春のプチトマト貰うな」

 そう言われ、小春は膝の上に置いていた弁当箱を見下ろした。

 そこにはプチトマトに手を伸ばす────小人がいた。

「おいおい……。何だよ、こいつ」

 全員の困惑を蓮が代弁した。

 小春はしかし、その小人が頭につけているリボンのカチューシャを見て、ぴんと来た。

「もしかして」

 そう言いかけたとき、小人は元の大きさ(、、、、、)に戻った。

 先ほどは両手でプチトマトを持って丁度くらいに見えたが、今は指先に収まっている。

 彼女は小春たちと並んで座り、それを頬張った。

「お前は────」

 慧も閃いたらしく、彼女を凝視する。

 奏汰の家の前で消えた魔術師。そして小春たちがD組で見かけた女子生徒。

 彼女はにっこりと人懐こく笑った。

「あたし、D組の有栖川美兎(ありすがわみう)! よろしくー。見ての通り魔術師やで。皆からは“アリス”って呼ばれてるから、気軽にそう呼んでな」

 あまりに堂々とした態度に呆気に取られてしまう。魔術師であることを隠そうともしていない。

「それより、何で私の名前……?」

 さらりと呼ばれたが、小春は、アリスと話すのは今が初めてだったはずだ。

 昨日手を振られたことと言い、アリスの側は知っているようだが。