「……ただ、先に謝っとく」
大雅は苦い表情で言った。
「バレたときに最悪なのは、強引な奪還ってパターン。俺を奪い返すなり“絶対服従の術”を永遠にかけ続ける……とか。そうなったら、たぶんおまえらに迷惑かける」
冬真の命令は、小春たちに害をなすものばかりだろう。
「絶対服従は基本的に、術者本人にしか解けねぇ。術者以外なら、俺のテレパシー魔法で上書きすれば解けるけど、俺が自分に……ってのは無理」
冬真の“絶対服従の術”に対しては、実は大雅のテレパシー魔法が唯一の対抗手段だった。
とはいえ、それは大雅以外の人物にかけられたときの話だ。
これまで黙っていたお陰で、その術に対抗できる手段が存在することを彼は知らないはず。
けれど、それを“幸い”のひとことでは流せない。
大雅がかけられては結局、意味がないからだ。
「つまり、俺がかけられたら……死ぬより地獄かもな」
◇
夜道を歩きつつ、陽斗はスマホを眺めていた。
あらかじめ作っておいた同盟のグループトークを開き、会話を追う。
新たにアリスと大雅のふたりと行動をともにすることになったという旨が記されたメッセージが届いていた。
大雅とは近々直接会ってテレパシーを繋げておいた方がいい、とのことだ。
(同じ学校だし、明日にでもクラス覗いてみるか)
そんなことを考えながら“了解!”と返そうとしたものの、はたと動きを止める。
ふいに防衛本能が危険信号を送った。陽斗は振り返る。
その瞬間、飛んできた銃弾のようなものが頬を掠めた。
「おわっ」
頬に熱が走り、直後に痛みが訪れる。
持ち前の反射神経で避けたからよかったものの、そうでなければこの程度の傷では済まなかっただろう。
「あっぶね……! おまえ何だ、誰だよ! 魔術師だな? 俺とやろうってのか?」
少し先の暗がりに浮かび上がる人影に、威勢よく吠えた。
フードを目深に被った怪しい人物だが、体格的に恐らく男だ。
とはいえ、何で攻撃されたのだろう。まるで物理攻撃のようだった。
「ほら、かかって来いよ! 俺は逃げも隠れもしないから」
蓮からコピーした火炎魔法で、手に炎を宿した。
ふっと熱気があたりを包み、暗闇を切り裂く。
彼の周りを取り囲むように放ったものの、文字通り瞬く間に消えてしまった。
弱々しく煙が揺らめく。
静寂に響いたのは、ぽたりと雫の落ちる音。
水魔法。そう頭によぎった陽斗は、はっと息をのんだ。
「おまえ……まさか、瑚太郎?」



