ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 あえて感情を押し殺しているせいか、小春には目の前にいる彼が機械のように感じられた。
 あまりにも淡々と言うから、言葉の意味を即座に理解できなかった。

「命懸け……?」

 瞳が揺れるのを自覚する。
 おおよそリアリティのない話なのに、戸惑う傍らでどこか冷静に腑に落ちた。

 普通のゲームじゃない。
 それは昨日の時点で確かだったからだ。

 “魔術師”になるプレイヤーは自分自身。
 現実という舞台で、この身ひとつで戦うということなのだ。

「この先、非現実的でわけ分かんねぇことばっか起こる。おまえも狙われることになるかも。けど、心配すんな。俺が守るから」

 混乱と動揺に明け暮れる小春の頭をぽん、と撫でた。

 突き刺すほどの真剣さは伝わってきたけれど、そう言われても戸惑いや不安は消えない。
 そんな顔をされたら、むしろ怯んでしまう。

「分かるように言って……」

「すぐに分かる。俺も知ってる限りのことはぜんぶ話す」



 “名花(めいか)高等学校”と書かれた門を潜る。
 日常を侵食する不穏な気配を肌で感じ、思わず緊張が高まった。

「ねぇ、それで────」

 もう少し詳しく聞こうと切り出したものの、すぐに言葉が途切れた。

 昇降口へと向かう途中、校舎に沿って植えられた低木の茂みに妙なものを発見したのだ。

「何だろう、あれ」

 近づいてみると、それは腕を()した彫像(ちょうぞう)だった。

 肘から先までしかないけれど、骨つきや筋肉からして男性もしくは男子のものだろうと分かる。
 人間の腕をそのまま固めたかのようなリアルさだ。

 手首には腕時計まで巻かれていて、時刻はデジタル表記で20時4分。

「美術部の作品とかかな? 何でこんなところにあるんだろう」

「作品、か……?」

 蓮は怪訝そうに眉をひそめる。
 何となくこれを“作品”と呼ぶにはふさわしくないような気がした。

 肘から先しかないのは、折れたか割れたからなのではないだろうか。
 断面が平らでなく不規則に凹凸しているのだ。

「……!」

 屈んでまじまじと眺めた蓮は、はっと思い至って慌てて立ち上がる。
 動揺を拭えないまま小春の手を掴んだ。

「早く行こうぜ。もう、これには近づくな」

「え、ちょっと……」