冬真は星ヶ丘高校の三年七組、大雅は同校一年六組だが、律は緑葉学園高校の二年F組と、二人とは学校が異なっていた。
そんな律の存在から、冬真たちは他校にも魔術師がいることを既に掴んでいる。
だが、今はその理由よりも、目当ての魔術師を見つけ出すことの方が、冬真には重要なのだった。
「……大雅」
律を介し、冬真が呼んだ。
屋上の縁から手招きし、下を指した。
歩み寄った大雅が見下ろすと、下の歩道を一人の女子生徒が歩いて行く様が見えた。
「……魔術師だな」
大雅が言うと、冬真は口端を持ち上げる。
「あの制服って、名花だよね。使えるかも」
律を介して言うと、冬真は縁から降りた。
大雅に歩み寄り、その眉間に一瞬触れる。続いて律にも同じことをした。
律の瞳が色を取り戻す。
「……なぁ、何でお前は魔術師を殺さない?」
大雅は冬真に尋ねた。
冬真が自身を上回る魔術師を探して殺そうとするのは、無論のし上がるためだ。
しかし、その過程で判明した“それ以外”の魔術師のことは殺そうとしない。
大雅にはそれが疑問だった。
「直接確かめになんか行かなくても、ぶっ殺せば良くねぇか? どーせ、最後には殺すんだし」
相手の魔法を奪うか否かは置いておいても、殺して確認していった方が遥かに早いはずだ。
敵の数も減らすことが出来るため一石二鳥である。
「愚問だな。如月の魔法の前では、今の時点で殺す必要がないからだ」
答えたのは律だった。
傀儡としての冬真の代弁ではなく、正真正銘の律本人だ。
「誰がどんな魔法を持っているかを把握しておけば、必要なときに必要な魔術師を操作して召喚出来る。スロットには上限があるのだから、殺さず操る方が有意義だ」
「あー、なるほどな」
大雅は頷いた。
「冬真の場合は別に自分のスロットに入れなくても、実質的に自分のもんになってるんだもんな。下手に殺すと、スロットに入り切らずにあぶれた魔法が無駄になっちまう」
冬真は首肯を意味する微笑を湛える。
実際に役に立つのかどうかはさておき、彼ら彼女らは、冬真の“駒”になるか殺されるかの二択だ。
「如月。本当にあいつを引き込むつもりか?」
律は冬真に向き直り、先ほどの女子生徒を指しつつ念を押す。
冬真は頷いた。上手くいけば、彼女を利用して名花高校の魔術師事情を探ることが出来る。
「だったら、桐生。あいつに接触して、今のうちに最低限の情報を掴んで来い」
「はいはい」
大雅は雑な返事をすると、緩慢とした動きで屋上を後にし、学校を出た。
歩速を上げ、女子生徒を追い越すと、行く手を阻むように立ちはだかる。