「そして私には、同じく魔術師の仲間がいる。私たちは共闘関係にあるわ」

 そんな琴音の言葉に、瑠奈は顔を上げた。

「もしかして……小春ちゃんも? だから、あのとき────」

 一連の琴音の行動を思えば、その可能性に辿り着くのは必然と言えた。

 しかし、琴音は明言を避ける。

「私からこれ以上は何も言わない。でも、以前のように水無瀬さんや向井を狙っても無駄よ。二人にはもう、私や他の仲間がついてる。あなたに勝ち目はない」

「そんなの……」

「これだけ釘を刺してもまた何か仕出かしたら、今度こそあなたを殺す。……いいわね」

 押し黙った瑠奈は最後まで納得のいかない表情をしていたが、結局何も言わずに立ち去った。

 それ以上の反抗は命取りだった。



 琴音は腕を組む。色付いた葉が、はらりと舞い落ちる。

「改めて妙なものだな。普段は一匹狼のお前が“仲間”なんて」

 死角になる位置の壁に背を預けて立っていた慧が言った。

 琴音はさして驚かず、そっと目を伏せる。

「あなたも似たようなものでしょ。だからこそ最初、私たちは手を組んだ」

「…………」

「私もあなたも、もともと他人に興味なんてなかった。だから、お互い下手に肩入れしない」

 少なくとも小春たちと手を結ぶ前は、仲間という形態ではなかった。

 積極的に協力はしないが、害したりもしない。

 ただ、それだけだった。

 極論、どちらかが死んだとしても不干渉ということだ。

「まぁ、“馬鹿みたいな真似”はしないだろうな」

 慧の言葉が何を指すのか、あえて尋ねなかった。

 容易に想像がついたからだ。琴音は頷く。

「そういうこと」



*



 小春と蓮は教室へ戻る途中、D組の前を通りかかった。

 何となく教室内を窺えば、一人の女子生徒が目に入った。

「あれ、あの子……」

「ああ、だよな」

 小春の言わんとすることを察した蓮は頷く。

 リボンのカチューシャをつけた彼女は、奏汰の家の前で消えた魔術師に間違いない。

 友だちと談笑していた彼女は、小春たちの視線に気が付いたのか、こちらを振り向いた。

 目が合うと、にっこり微笑まれた。

「え……」

 困惑する小春たちを他所に、彼女は親しげに手まで振ってくる。

 思わず周囲を見回したが、手を振られているのはやはり小春たちのようだ。

 どういうつもりなのだろう。知り合いではないはずなのに。

 奏汰の前で見かけたとき、向こうもこちらに気付いていたのだろうか。

 だとしても、あの余裕は何なのだろう?

 小春たちには、彼女が魔術師であることがバレているのに────。