とっ、と軽く着地したのを見て、蓮が深いため息をついた。

「……ったく、何処まで行くんだよ。落ちたらどうすんだ」

「それより誰かに見られる心配をするべきだろ」

 上空にいた小春にも、各々の表情の意味が分かった。

 確かに見られていたらまずい。夢中になってすっかり失念していた。

「それにしても、羽根が生えるなんて幻想的ね」

「……びっくりした。勝手に生えたり消えたりするの」

 小春の言葉に慧は思案顔になる。

「高度が関係あるのかもしれないな。ここから見た限りだが、十メートルが境界という説が濃い」

 そんなに高いところを浮遊していたのか、と小春は空を見上げ驚いた。

 高度十メートルを超えると羽根が生え、それ未満では消えるということだろう。

『羽根まで生えるなんていいなぁ』

「でも、何らかの制約がありそうね。ずっと上空に留まられると、ほとんど手出し出来ないから」

 “ゲームバランス”という観点から、運営側が何らかの調整を行っている可能性が高い。

 色々試して確かめたいところだが、今はあまりに目立ってしまう。

『何はともあれ、ひとまずは安心出来そうだね』

「もし魔術師の襲撃に遭っても、空中に逃げ込めるし、飛行してそのまま撒けるかも。工夫次第では攻撃にも転じられるかもしれないな」

 奏汰と慧が言う。

 その言葉に小春も蓮も安堵出来た。

 小春は自身の魔法を、盾でなく矛として使うときが来ないことを切に願った。



*



 一足先に屋上から戻った琴音は、他クラスから出てきた瑠奈を捕まえた。

「ちょっといい?」

 瑠奈は最大限の警戒心を剥き出しに、少し怯えつつ琴音の背を追う。

 琴音は中庭で立ち止まった。

 中心にある広葉樹を取り囲むように、カラーコーンが置かれている。

 和泉の石化死体があった位置だ。

「な、何の用?」

 精一杯の虚勢を張り、強気な態度を装う。

「ここ数日、大人しくしてたのは賢明ね。敵わないと悟ったの?」

 琴音の冷ややかな眼差しに気圧され、瑠奈は何も言えなかった。

「もう分かってるだろうけど、あえて言うわ。私は魔術師よ。あなた風に言えば“魔法少女”かしら」

 瞬間移動の魔術師────身をもって体験した瑠奈は、そこまで理解していた。

 琴音の言う通り、瑠奈自身も彼女には敵わないだろうと思っていた。

 下手に刺激して変なところへ瞬間移動させられたら詰む。

 勝負なんて挑んでも、この前みたいにこちらが魔法を発動する前に飛ばされる。

 一対一で真正面からぶつかったら、絶対に敵わない。