頷いてみせると、彼は顔を綻ばせた。
大雅は特に何も言わず、再びストローに口をつける。炭酸の泡が上った。
「実を言うと、もうひとり戦闘要員がいるにはいる。けど、ちょっと厄介な問題を抱えててさ」
困ったように苦笑しつつ、冬真は言った。
「だから、瑠奈ちゃん。きみを頼らせてね」
瑠奈にはその問題とやらがまったく不明で、首を傾げてしまう。
けれど、それ以上の説明をいまする気はないらしく、さっさと話題を切り上げた。
「さっそくだけどさ、僕らはとある異能を使う魔術師を探してるんだよね」
僕ら、というか、主に冬真が、である。
「とある異能?」
「硬直魔法、時間操作系の異能、それから空間操作系の異能。きみの知り合いに誰かいたりしない?」
瑠奈ははっとした。
前のふたつはともかく、空間操作系の魔術師ならよく知っている。
「いる……いるよ! 空間操作系────瞬間移動の魔法少女!」
つい前のめりになって言った。
頭の中に琴音の冷たい表情と脅迫がよぎり、思わず熱が入る。
「マジで?」
大雅もこれには意外そうに目を見張った。
いきなりの思わぬ収穫に驚きつつも、冬真は内心満悦する。
「ちなみにその子、仲間にできそう?」
友好的に声をかけて応じてくれた方が、殺すときに容易いだろう。
「……無理だと思う。あたしのこと嫌ってるだろうし、向こうは向こうで仲間がいるって言ってたし」
そう答えるまでに時間はかからなかった。
冬真も特に期待はしておらず、さほど落胆はない。
「そっか、じゃあやっぱり正面から殺るしかないな。その子の仲間は何人いるって?」
さらりと言われたけれど、探している理由が“殺すため”なのであれば、瑠奈にとっても都合がいい。
「詳しいことは分かんない。でも、その子含めて3人以上は確実だと思う」
小春と蓮のことだ。
魔術師であることは把握しているものの、何の異能を使うかまでは分からずじまいだった。
「よし、じゃあ俺が探りにいく」
大雅が言った。いつものように、テレパシーで特定するのが一番早い。
冬真としても自身の駒にするため、無用な犠牲は出したくないのが本音だった。
「分かった。じゃあふたりに任せるね」
にこやかに頷いた冬真は、そこで律を解放した。
我を取り戻した律の切れ長の目が瑠奈に向けられる。
「えっと……」
「話は聞いていた。傀儡状態でも意識はある」
同じ人物から発せられていても、冬真の口調とあまりにちがって、そういう意味でも少し戸惑った。
「改めて、俺は佐久間律だ」
「あ、胡桃沢瑠奈です……。よろしく」
瑠奈が困惑気味に自己紹介を返すと、大雅は緩慢と立ち上がる。
グラスを満たしていた炭酸飲料は既に空になっていた。
「じゃあ俺、帰るから。瑠奈、明日の放課後に行くからな」
「うん、分かった」
そう頷きつつ、ふと琴音たちの強気な態度を思い返す。
もしかしたら、敵わないと思っていた彼女にひと泡吹かせられるかもしれない。
想像すると自然と笑みが込み上げた。



