週明けの昼休み、小春たちは屋上へ集った。

 人の来ないこの場所は、気付けば都合の良い基地のようになっていた。

 他校組の奏汰と陽斗とは通話を繋いでおく。

「あの……私、ガチャ回しちゃった」

 小春の爆弾発言に、全員が動きを止めた。

 蓮に至っては、手にしていたパックのジュースをそのまま滑り落とした。

「何で……。守るって言っただろ。下手したら死んでたんだぞ」

「ごめん! でも、守られるだけじゃ嫌だよ。私も戦う」

「だからって────」

「落ち着け、向井」

 我を忘れている蓮に慧が呼びかけた。

「結果的に無事だったんだ。もう責める必要ないだろ」

 蓮は軽く唇を噛み締め、そっぽを向いた。

「代償は何だったの?」

 蓮の一番聞きたかったであろうことを琴音が代わりに尋ねる。

「五年分の寿命、だった。本当に失ったのかはよく分かんないけど……」

 小春は眉を下げつつ答えた。

『魔法は?』

 電話口の向こうから陽斗が尋ねる。

「飛行魔法って書いてあったんだけど、どうやれば良いのか分かんなくて」

 飛行ということは、少なくとも宙へ浮くことが出来るのだろう。

 しかし、この間は何も起きなかった。

 小春が困り果てていると、そっぽを向いていた蓮がくるりと振り返る。

「何か、こう……勢いで、何となくこう……がーっと使えんだろ」

「……全然分かんないよ」

 語彙力の死んでいる蓮の説明はまったく参考にならず、さらに困り果てた小春は一刀両断した。

「コツは、イメージすることよ」

『具体的にイメージ出来れば、より安定して上手くいくよ』

 琴音と奏汰の助言を受け、小春は立ち上がった。

 ここは立ち入り禁止だし、少しくらいなら試しても平気だろう。

 そっと目を閉じ、空に浮かぶ想像をしてみる。

 ふっ、と足が地面から離れた感覚があった。思わず目を開ける。

「浮いた!」

 小春より先に蓮が言った。

 電話口の向こうで「マジで!? 俺も飛びたい!」と陽斗のはしゃぐ声がする。

 小春は不思議な気分だった。

 空中に留まることが出来るなど、まさしく魔法の力だ。

 難しい理屈は分からないが、宙でも地上と同じような感覚で動くことが出来た。

 一歩踏み出せば、きちんと進む。前後左右は無論、上下にも────。

 足を動かさずとも高度を変えられるが、なかなか思うようにいかない。

 気付けば風が強くなっていた。いつの間にかかなり高い位置まで来ている。

「……え!」

 ばさ、と羽ばたくような音がした。

 鳥でもいるのかと思ったが、それは自分から発せられたものだった。

 両の肩甲骨の辺りから大きな白い羽根が生えていた。

 羽ばたいても身体に負荷は感じない────ということは、羽根はあくまで補助的な役割を持つもので、小春自身からは独立しているのだ。

 ふと下を向けば、皆の姿が小さくなっていた。

 蓮が焦ったように大きく手招きしている。

 琴音や慧の表情からも余裕がなくなっていた。

 小春は素早く降下する。途中で羽根は消えてしまった。