「……冬真くんの魔法は?」
正面に向き直った。
彼は相変わらず穏やかな表情だ。
「僕は傀儡魔法だよ。対象に10秒間触れると、相手を操ることができるんだ」
触れることで相手の意識に介入し、操り人形のごとく操作することができる。
瑠奈はちらりと律を見やる。きっと、彼はいま操られているのだ。
また、冬真の異能は死者を操ることも可能だった。
ただし、死者は生きている人間に比べて意識の入口が狭いため、せいぜい歩かせたり代弁させたりする程度で限界だ。
「あくまで身体を借りてるだけだから、その人の思考までは読めない。それと、同時に操ることができるのはひとりまでだよ」
律を介し、冬真は言う。
その微笑みに怯んでしまいそうだった。
一見、人畜無害で優しそうに見えるからこそ、能力とのギャップに驚きを禁じ得ない。
「それと……物理的に身体を乗っ取る以外にも、僕は人を操れるんだ」
「え? どうやって?」
「方法は言わない。けど、それを使うと誰でも12時間は僕に絶対服従するようになる。こっちの場合は、操作に上限人数もない」
それこそが傀儡魔法の真骨頂であり、最も恐ろしいものだった。
いずれも術者が対象者の眉間に触れれば操作を解除できるが、それ以外には自力でも他力でも不可能だ。
術をかけられた側は、たとえ気を失っても解けない。
死亡すれば、実質的に解除と同義ではある。
けれど、死者にもう一度、術をかけてしまえばいいだけの話だ。
たとえば傀儡から逃れるために死を選んだとしても、結局は死してなお操り人形になるだけだった。
「僕の異能はね、人の潜在意識に侵入するんだ。死者にも意識が存在してて、意識の操作に肉体の死は関係ない。だから死者を操ることもできる」
冬真の色素の薄い双眸が、冷酷な色を滲ませた。
自身の能力に心底満足気だ。
「ただし、その死体が既に失ってる身体機能や能力を利用することはできない。たとえば、足のない死体を操っても、歩かせることは不可能ってわけ。まあ、これは生きてる人間を操る場合もそうなんだけど」
瑠奈は俯くように数度頷いた。
能力の全容を聞けば、その自信にも納得だ。



