身支度と朝食を済ませた小春は、いつも通りの時間に家を出る。
 昨日言っていた通り、門前で蓮が待っていた。

「おはよ」

「ん? おー、おはよ」

 彼は何やらスマホと睨めっこ状態だった。
 学校への道を歩き出すと、首を傾げて尋ねる。

「なに見てるの?」

「いや、何っつーか……」

 どこか険しい表情でスマホをポケットにしまい、その調子のまま答えた。

「他県の高校行った友だちなんだけどさ、何かずっと返信返ってこねぇんだよな」

 1、2か月前を最後にぱったりと連絡が途絶えてしまったという。
 蓮は神妙な面持ちで続ける。

「11月に東京来るっつってたから、どっか遊びにいこうって約束もしてたのに」

「それは確かに変だね……。何かあったのかな」

 漠然(ばくぜん)とした不安感を覚えたとき、はたと昨日の妙なゲームのことを思い出した。
 スマホを取り出しつつ口を開く。

「そういえば昨日ね、変なメッセージが来たの」

「変な? 誰から?」

 例のトーク画面を開き、そのまま見せようとしたものの思いとどまった。

 “トーク画面及び本アプリの画面を他者と共有した場合、ペナルティが与えられます”。
 そう書いてあったことがふいに蘇ったからだ。

 なんてことはない、ただのゲームだ。
 そう思うのに無視できなかったのは、このゲームの持つ異様な雰囲気に飲み込まれているからかもしれない。

「……ウィザードゲームって知ってる?」

 結局、スマホをポケットに戻しながら尋ねた。
 ぴた、と蓮の足が止まる。

「嘘だろ……」

 ほとんど声にならない呟きをこぼし、青ざめた蓮は勢いよく小春の両肩を掴む。

「ガチャとか、回してねぇよな? いや……それより、誰にも襲われてねぇか?」

「えっ? う、うん……」

 切迫した尋常ではない様子に圧倒され、半ば唖然としながら何とか頷いた。

 蓮はうなだれるように俯く。
 
「な、なに。どうしたの?」

「……最悪だ」

 小春は戸惑ったものの、その態度からして彼がゲームのことを知っているのは間違いなかった。
 いっそう不安がかき立てられる。

「そ、そんなにやばいゲームなの……? 消したいのに消せなくて、どうしたらいいのか────」

「どうしようもねぇよ。メッセージにも書いてあっただろ? 俺たちに拒否権なんてねぇ」

 どく、と心臓が重たい音を立てる。

 “本ゲームのプレイに拒否権はありません”。

 昨日は気にも留めなかったその一文が、現実感を増してのしかかってきた。

「プレイヤーに選ばれた以上……“最後のひとり”を目指して、命懸けで戦うしかねぇんだ」