律を介して冬真が呼んだ。屋上のふちから手招きし、すっと下を指す。
呼ばれた大雅が見下ろすと、下の歩道をひとりの女子生徒が歩いていく様が見えた。
「……あいつ、魔術師だな」
大雅が言うと、冬真は口端を持ち上げる。
「あの制服って名花だよね。使えるかも」
ふちから下りると悠々と大雅に歩み寄り、その眉間に一瞬触れる。
続いて律にも同じことをした。
すると、彼の瞳が光を取り戻す。
「……なあ、何でおまえは魔術師を殺さない?」
大雅は冬真に尋ねた。
彼が自身を上回る魔術師を探して殺そうとするのは、言うまでもなくのし上がるためだ。
けれど、その過程で判明した“それ以外”の魔術師のことは殺そうとしない。それが疑問だった。
「直接確かめになんか行かなくても、ぶっ殺せばよくねぇか? どーせ、最後には殺すんだし」
相手の異能を奪うかどうかはさておいても、殺して確認していった方が遥かに早いはずだ。
敵の数も減らすことができるため一石二鳥である。
「愚問だな。如月の異能の前では、現時点で殺す必要がないからだ」
答えたのは律だった。
傀儡としての冬真の代弁ではなく、正真正銘の彼本人だ。
「誰がどんな異能を持っているかを把握しておけば、必要なときに必要な魔術師を操作して召喚できる。スロットには上限があるんだから、殺さず操る方が有意義だ」
「あー、なるほどな」
合点がいった大雅は頷いた。
「冬真の場合は別に自分のスロットに入れなくても、実質的に自分のもんになってるんだもんな。下手に殺すと、スロットに入りきらずにあぶれた異能が無駄になっちまう」
冬真は肯定を意味する微笑をたたえる。
実際に役に立つかどうかはともかく、彼ら彼女らは、冬真の“駒”になるか殺されるかの二択だ。
「ところで、如月。本当にあいつを引き込むつもりか?」
律は冬真に向き直り、先ほどの女子生徒を指しつつ念を押す。
冬真は頷いた。
うまくいけば、彼女を利用して名花高校の魔術師事情を探ることができる。
「だったら、桐生。あいつに接触して、いまのうちに最低限の情報を掴んでこい」
「はいはい」
歩いていた女子生徒を追い越すと、行く手を阻むように立ちはだかる。
「な、何か用ですか……?」
戸惑う彼女の問いには答えず、大雅はぶっきらぼうに言う。
「いいから、3秒黙ってろ」
彼女は眉を寄せたものの、素直に応じた。というよりかは困惑のあまり自ずとそうなった。
3秒間、視線を交わらせてから淡々と告げる。
「明日の放課後、駅前のファミレスに来い」
「な……。えっ? 何で? 何なの? 新手のナンパ?」
「ちげぇよ、おまえになんか興味ねぇ。とにかく来いよ、胡桃沢瑠奈」



