ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 冬真の傍らに立っていた佐久間律(さくまりつ)が人影を出迎える。

 穏やかな声色とは打って変わって無表情だ。
 微動だにしない律の双眸(そうぼう)には光がなく、さながらマネキンのような不気味さがあった。

「あー、だめだな。今日もおまえの探す魔術師は見つかんなかった」

 人影もとい桐生大雅(きりゅうたいが)は、気だるげにそう答える。

「そっか……。やっぱり一筋縄ではいかないよね」

 言ったのは律だが、それに合わせて表情が動いたのは冬真だった。残念そうに眉を下げる。
 大雅は改めてその様を眺め、しみじみと呟いた。

「……便利なもんだな、おまえの“傀儡(かいらい)魔法”。代償で失った声も相殺(そうさい)じゃん」

「まあね。でも、そうとも言いきれないよ。僕の異能には声が必要不可欠だからね」

 代償で声を出せなくなった冬真だが、会得した異能により誰かを“傀儡”にしてしまえば、声を借りて会話することが可能だった。
 いまは律が傀儡状態だ。

「それで言えば、きみこそいい異能を引いたよね。唯一、魔術師を見分けられる……」

 大雅にかかれば、ひと目見ただけでその人が魔術師か否かを判別できる。

 無論のこと、それだけでは相手の保有する異能までは分からないが、大雅はそこまで特定する(すべ)も持ち合わせていた。

「お陰で僕も助かってるよ」

 冬真はにっこりと微笑んだ。

 ────探しているのは、自身より強力な異能を持つ魔術師たち。
 具体的には、時間操作や空間操作といった(たぐい)の能力だ。

 冬真の異能も確かに強力ではあるものの、やはりそれらの前では限界が生じてしまう。

 本領を発揮するには、有利な環境を作り出さなければならない。

 そして、そのために“とある異能”を有する魔術師を捜していた。
 彼または彼女が見つかれば、冬真は限りなく最強の存在に近づく。

「どこにいるのかな。硬直魔法の持ち主は────」

 冬真の唇が弧を描き、冷えきった風が髪を揺らす。

「……とりあえず、続けるか? 地道な魔術師探し」

「そうだね、大雅に頼りきりになるけど」

「別にいいよ、大した負担でもねぇし。1年は網羅(もうら)したから、次は2年だな」

 両手をポケットに突っ込み、こともなげに言った。
 月明かりに反射し、左耳のピアスが光る。

 ────現状、大雅の能力によって魔術師を特定し、その異能を割り出すことで魔術師のリストを作っているところだった。

 少なくともこの作業は、冬真の目的の魔術師が見つかるまで続くのだろう。

 当面は手っ取り早い星ヶ丘高校生を中心に捜しつつ、ほかでも見かけ次第、特定していく形だ。

「……大雅」