瞬間移動の魔術師────身をもって体験した瑠奈は、そこまで理解していた。
琴音の言う通り、どうあがいても敵わないだろう。
「そしてわたしには、同じく魔術師の仲間がいる。わたしたちは共闘関係にあるわ」
瑠奈は、はっと顔を上げた。
「もしかして……小春ちゃんも? だから、あのとき────」
一連の琴音の行動を思えば、その可能性にたどり着くのは必然と言えた。
けれど、彼女はあくまで明言を避ける。
「これ以上は何も言わない。でも、以前のように水無瀬さんや向井を狙っても無駄よ。ふたりにはもう、わたしやほかの仲間がついてる。あなたに勝ち目はない」
「そんなの……」
「これだけ釘を刺してもまた何か仕出かしたら、今度こそあなたを殺す。……いいわね」
押し黙った瑠奈は最後まで納得のいかない表情をしていたものの、結局すべてを飲み込んできびすを返した。
それ以上の反抗は命取りで、諦めるほかなかった。
────色づいた葉が、はらりと散って落ちる。
「改めて妙なものだな。普段は一匹狼のおまえが“仲間”なんて」
死角になる校舎の壁裏に、背を預けて立っていた慧が言った。
琴音はさして驚かず、腕を組むとそっと目を伏せる。
「あなたも似たようなものでしょ。だからこそ最初、わたしたちは手を組んだ」
「…………」
「わたしもあなたも、もともと他人に興味なんてなかった。だから、お互い下手に肩入れしない」
少なくとも小春たちと手を結ぶ前は、仲間という形態ではなかった。
積極的に協力はしないが、害したりもしない。
ただ、それだけだった。
どちらかが死んだとしても干渉なんてしない。
「まあ……ばかみたいな真似はしないだろうな」
それが何を指すのか、あえて尋ねたりはしなかった。
容易に想像がついたからだ。琴音は頷く。
「そういうこと」
◇
冷たい風の吹きつける真夜中────星ヶ丘高校の屋上で、如月冬真は深い藍色の空を見上げていた。
フェンスのない屋上のふち、生と死の境界に悠々と腰を下ろしている。
ふいにドアノブの回る音が聞こえたかと思うと、キィと鉄が軋んで誰かが屋上に姿を現した。
「おかえり、ご苦労さま。収穫はどう?」



