蓮と別れた小春は自室へ上がると、ウィザードゲームのアプリを立ち上げる。
薄暗い中、電気も点けずに画面を眺めた。
無力感も後ろめたさも申し訳なさも、もう味わいたくない。
自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。
自分が足手まといになり、迷惑をかけるのは嫌だ。
水に捕らわれたときの溺れるような苦しさと、庇ってくれた蓮の血を思い出す────。
小春は23時59分を待つことにした。
結局、代償の選択肢にある4つ目が何なのかは確かめられなかった。
どの代償も選びたくなくて、自分では選ばないことにした。
まさか、こんな瞬間が来るとは思わなかった。
こんなゲームやガチャなんかに真剣になるなんて。魂を売る羽目になるなんて。
「…………」
────やがて、時間になった。
小春は一度ゆっくりと呼吸すると意を決して「④」を選択し、ガチャを回した。
0時になった。日付が変わる。
その瞬間、びりっと身体に微かな電流が走ったような感覚がした。
画面にポップアップが表示される。
【オメデトウ!
キミには“飛行魔法”を授けるよ~】
その軽い口調を見ると、自分の真剣さや緊張が滑稽にさえ思えてくる。
「飛行……?」
【あなたの“寿命(5年分)”を消費しました。
異能ガチャは23時59分に再度回せるようになります】
(寿命……)
小春は胸に手を当てた。ばくばくと心臓が早鐘を打っている。
あまり実感が湧かない。
けれど、どうやら即死は免れたようだ。
大きな山を超えたような気分になり、深々とため息をついた。ひとまず助かった。
「あれ……」
つ、とふいに鼻から血が垂れてきた。慌てて拭い、ティッシュで押さえておく。
安堵したせいか、異能やら代償やらの影響かは分からなかったけれど、鼻血はすぐに止まった。
「飛行って、どうやるんだろう?」
蓮やほかの魔術師たちが異能を使っていたときのことを思い出す。
真似をして手をかざしてみたけれど、何も起きない。
事実、異能を目にしている以上、いまさら嘘やいたずらだったということもないだろうに。
(週が明けたら聞いてみよう)
そう思うと同時に、蓮への申し訳なさが募る。
異能を得ても得なくても、ありがたく申し訳ない。
どちらにしても、自分のわがままを押し通した形になる。
小春は心苦しさを覚えながら眠りに就いた。



