現状、陽斗のストックは3つ埋まっているという。
ひとつ目は奏汰の氷魔法、ふたつ目は“衝撃波魔法”で、これは持ち主が不明。3つ目が水魔法だ。
戦闘中に隙を見て相手の異能をコピーできるよう、ひと枠はいつも空けているらしい。
話を聞き終えた慧は、厳しい面持ちで陽斗に釘を刺す。
「……今後は、無闇にひとりで突っ走るなよ」
「分かった。4つ目のスロットが埋まったら大人しくするよ」
それではいつになるか分からない。
蓮は彼の前に屈み込むと、腕を差し出した。
「ほら、俺の異能コピーしとけ」
「……え、いいの?」
「おう。役に立つかは分かんねぇけどな」
「やった、ありがと!」
無邪気に笑った陽斗を見て、小春はその拘束をほどいた。
4つ目のスロットに火炎魔法がストックされる。
「……ちなみに、水魔法は誰のものか分かるか?」
「うん、むしろそれだけしか分かんないけど」
火炎を扱う蓮の天敵とも言える魔術師だ。なるべくなら会わないようにしたい。
「早坂瑚太郎。星ヶ丘高の2年3組、俺と同じクラス」
────それぞれの異能と事情を陽斗に伝え、この日は解散となった。
蓮は小春の家の門前で足を止める。
「……ごめんな。守りきれなくて」
「蓮は守ってくれたよ! ……謝るのはわたしの方。ごめんね、痛かったでしょ」
「ばか、大したことねぇよ」
消え入りそうな声で謝れば、蓮は笑った。
けれど、小春の脳裏にこびりついた、あのときの鮮明な赤色が頭から離れない。
確実に自分のせいだ。
もう少しで本当に取り返しのつかないことになるところだった。
「わたし────」
やっぱり、どうにかしないと。
代償なんて恐れている場合じゃない。
「いいから、おまえは気にすんな。頼むから黙って守られててくれ」
「……分かった」
懇願するような眼差しを向けられ、小春は頷くほかになかった。
実際は1ミリも納得なんてしていないのに。
「また月曜日ね」
「おう、じゃあな。何かあったら呼べよ。時間も曜日も関係ねぇからな」



