────それでも、自分で自分を守れるだけの力を得る方法は、彼を殺すことではないはずだ。
「どうする、水無瀬」
慧に問われた小春は、毅然と顔を上げた。
「……わたしは殺さない。ふたりも殺さないで。代わりに、この人を仲間に入れよう」
ふたりは意表を突かれたように眉を寄せる。
その選択肢はそもそも頭になかった。
「正気か?」
とても手を取り合える相手には見えない。仲間なんてとんでもない。
けれど、否定的な慧の眼差しにも小春は臆さず頷いた。
「目覚めたら話を聞いてみよう。それでもし危険そうだったら、そのときはわたしが……」
小春があえて口にしなかった部分を、ふたりは心の内で補っておく。
「人数は多い方がいいんだろ? だったら、とりあえず話すだけ話してみようぜ」
賛同した蓮は再びスマホを取り出し、琴音に連絡を取った。
そろそろ人目を気にしなければならない。気づけばそれほどの騒ぎの渦中にいた。
事情を聞いた琴音は瞬時にこの場へ現れると、全員を河川敷の橋の下へと移動させた。
慧は彼のネクタイをほどき、両手首を縛って拘束しておく。
ほどなくして、彼は意識を取り戻した。
「……うわ、また増えてる」
自身を取り囲む面々を見上げ、小さく呟く。
「やっべー……。俺、殺される?」
拘束されている事実に気がつき、苦い表情を浮かべた。
小春は地面に座り込む彼の正面に屈む。
「手荒なことしてごめんね。わたしは水無瀬小春。あなたは?」
「……甲斐陽斗」
思いのほか友好的に接せられたからか、ペースを乱された陽斗は素直に答えてしまった。
「ひとつ提案があるの」
「……何だよ?」
殺すつもりなら、気絶している間にとっくに手を下していたはずだ。
想像がつかず、警戒しながら次の言葉を待つ。
「わたしたちの仲間にならない?」
「へ?」
まったく予想外の言葉に素っ頓狂な声が出た。
つい先ほど殺そうとしてきた相手に手を差し伸べているのだ。



