「奏汰は無事だって。襲われてもねぇし、異能も奪われてねぇ」
「よかった……。でも、どういうことだろう。同じ能力が存在するってことなのかな」
小春は疑問を口にする。
それはありえない可能性ではなかった。
「────水無瀬、こいつを殺せ」
ふいに慧が残酷なことを口にする。
とっさに何を言われたのか分からず、一瞬、呼吸すら忘れた。
蓮も息をのむ。
突然何を言い出すのだろう。
「異能の疑問も殺せば答えが分かる。何より無償で能力を手に入れられる、またとないチャンスだ」
感情の込もっていない、淡々とした声音で言を紡いだ。
「いまなら“無魔法”の水無瀬にも殺せるだろ」
小春は思わず横たわる彼を見やった。
目を閉じてはいるけれど、確かに息をしているのが分かる。
あれを、この手で止めろと言うのだ。
「おい、慧。何をばかなこと言ってんだよ。何回も言うけど、小春のことは俺が────」
「守れなかっただろ。僕が来なきゃ、ふたりとも死んでた」
「それは……」
「いまさら、異能の会得に反対する理由はないはずだ。向井、おまえは水無瀬が代償を負うのが嫌なんだろ。だったら、代償を払わずに異能を得られるこの唯一の方法に賛成するべきじゃないか? やるならいましかない」
慧の冷徹な言葉は、けれど的を射ていることを小春は理解していた。
実際、無力な自分は蓮を巻き込んで死ぬところだった。
何もできなかった。
蓮もまた返す言葉を持ち合わせていなかった。
結果が物語っている。
「おまえが無理なら、僕や向井がやる。死体から異能を奪うんだ。……細かいことは分からないが、見た限りこいつの能力は決して弱くない。こいつを生かしても復讐しにくるだけだろう。やけに好戦的だし」
すべて正論かもしれないけれど、それだけで割り切れるような内容ではなかった。
殺すなんて無理だ。殺せるはずがない。
自分のためだけに彼を殺す権利なんてない。
(でも……)
小春は蓮を見上げた。
自分のせいで傷を負わせた。危険に晒した。
このまま蓮や周囲に甘え続けていては迷惑だ。足手まといでしかない。
だからこそ、慧の言う通りにするべきなのだろうことは、頭では十分すぎるほど分かっていた。



