「悪い、遅れたな。もっと早く引き返せばよかった」
「いや、助かった。……けど、いま命中したはずだよな?」
あまりの衝撃に始終を目で捉えることはできなかったものの、慧の雷撃が彼の脳天に直撃したのではないのだろうか。
水で濡れていたお陰で、威力増大で命中したはずだ。
「何だよ、おまえもこいつらの仲間か? なかなかやるじゃん。雷も悪くないなー」
彼は暢気にも楽しそうに笑っていた。
焦げ臭さや立ち上る煙が充満しており、まともに食らったはずなのになぜか平然としている。
「あ、実は俺の代償って痛覚だったんだ。だから、どんな攻撃も効かない」
得意気に言う彼に、小春は思わず「そんな」とこぼした。
複数の異能を操る上に攻撃が効かないなんて、どうすれば敵うと言うのだろう。
一方で、慧は余裕を崩さなかった。さらには呆れ気味だ。
「よし、水も氷もだめならさっきの────」
威勢よく攻撃を繰り出そうとしたとき、ふいにたたらを踏んだ。
「あ、れ……」
戸惑ったように呟くと、そのままばったりと地面に倒れ込む。周囲の水が跳ねた。
彼はそのまま、眠るように気を失ってしまった。
「え?」
「おい、急に何だよ」
困惑する小春と蓮に対し、慧は冷静にメガネを押し上げる。
「ばかだな。痛覚がないからと攻撃が効いてないわけじゃない。ダメージは蓄積する。痛覚がないというのは、己の危険な状態に気づけないというだけだ」
その落とし穴に、彼は気づいていなかったのだ。
自身の能力と痛覚の麻痺に慢心したがゆえの敗北と言える。
「助けてくれてありがとう、望月くん」
「ああ、マジでありがとな。もうだめかと思った」
しかし、慧は厳しい表情を崩さなかった。
何も言わず、つと視線を倒れている彼に向ける。
「悪ぃ、ちょっと奏汰に連絡してみる」
スマホを取り出した蓮はそう言って少し離れた。
「……何かあったのか?」
「あ、えっと……この人、奏汰くんの氷魔法を使ってたの。ほかにも水魔法と、あともうひとつ。よく分かんないけど強かった」
慧は目を見張った。
少なくとも3つの異能を持つ魔術師。
その口ぶりから、ガチャで手に入れたのはそのうちのひとつだけだろう。
既にその手を血で染めているのだ。奏汰とは異なり、自身の意思で。
そのとき、通話を終えた蓮が戻ってくる。



