一瞬、余裕を失った彼は飛び退いて息をつく。
「……分かったよ、もう勝負は見えてるけどおまえに集中することにする」
そう言うと、小春に向けて手をかざす。
彼女を捕らえていた水がするりと液化してほどけ、ぱしゃっと地面に落ちた。
崩れ落ちて咳き込む小春に慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「う、うん……。何とか……」
小春は必死に酸素を貪り、吸って吐いてを繰り返した。
顔色は真っ青だが、意識ははっきりとしている。
ほっとした蓮が顔を上げると、彼はにやりと八重歯を覗かせた。
「……なーんてな」
再び小春を狙って手をかざすと、勢いよく何かが飛んできた。
蓮はとっさに身を挺して庇う。
背中にその“何か”が激突し、衝撃で半ば反りながら咳いた。鮮血が散る。
「……っ」
「蓮!!」
小春は動揺しながら蓮と血を見比べた。
何が起きたのか分からない。一瞬の出来事だった。
くらくらする頭を押さえ、蓮は「平気だ」と掠れた声で答える。
唇の端に滲んだ血を拭った。
「くそ……」
「そいつに手出すのって別に正攻法じゃん。おまえに我を失わせるための正当な作戦。だろ?」
悔しいけれど、彼の読みは合っている。
蓮の原動力は小春を守ることにあるのだから。
「おまえ……何個持ってんだよ」
怯みと痛みをひた隠しに、彼を睨めつけた。
確認できただけでも3つ目の異能だ。
「さあ? 死ぬまでに答え合わせできるといいな」
彼は嘲笑った。
地面の水がうねり、再び急速に渦を巻き始める。
小春にも蓮にもなす術はなかった。
もとより無力な小春は然ることながら、蓮も水魔法を前に無力化された状態だ。
────そのときだった。
彼の背後から、誰かが駆けてくる足音が迫ってくる。
「伏せろ!」
言われるがまま、蓮は小春を庇うように手を添えながらその場に伏せた。
ゴロゴロと地鳴りのような音がした直後、眩い閃光とともに轟音が響き渡る。
耳鳴りがして目が眩んだ。
続けざまに一転して静寂が訪れ、蓮たちは頭をもたげた。
目の前で戦闘狂の彼と対峙しているのは慧だった。
「望月くん!」



