教室に着くと、小春と蓮は驚愕した。
消えたはずの瑠奈がいたのだ。
瑠奈は小春を見つけると、怒りを滲ませながら歩み寄ってきた。
「来て」
「え……っ」
小春の返事を待たず、その手首を掴んで引っ張っていく。
あまりの力に小春は振りほどくことすら出来ず、瑠奈に連れられるがまま歩いた。
「おい、待て!」
蓮も二人の後を追いかける。
屋上まで上がると、瑠奈はやっと足を止めた。
眉を顰め、憤慨しながら小春を睨みつける。
「小春ちゃん、魔術師じゃないんじゃないの!? あたしを騙したんだね」
その言葉に、小春も蓮も戸惑った。
小春の嘘が露呈する要素は何処にもなかったはずだ。
「昨日……あたしに何をしたの?」
その一言で合点がいった。
瑠奈は、自身を消したのが小春だと勘違いしているのだ。
小春が魔術師であることを見破ったわけではなかった。
「私は何も……。いきなり瑠奈が目の前から消えて、本当に怖かったんだよ」
小春の言葉に瑠奈はさらに憤った。そんな言い訳は通用しない。
嘘つき、と罵ろうとして、咄嗟に言葉を飲み込んだ。
小春が泣きそうな表情で息をついたからだ。
「良かった……、無事で」
噛み締めるように呟いた小春に、蓮は呆れてしまう。呆れるが、それでこそ小春だとも思う。
いつだって自分より他人を想い、優先するのだ。
「ば、馬鹿じゃないの! 右手、なくなりかけたくせに」
「でも、なくならなかったよ」
「それはあんたに邪魔されたから! それがなければ今頃、小春ちゃんの右手は石になって粉々だったのに」
瑠奈は怒気を滲ませた眼差しを小春に突き刺した。
「自分であたしを飛ばしておいて、何が“無事で良かった”よ……。白々しい」
飛ばした……?
小春と蓮は一瞬視線を交わした。
「どういうことだ? お前の身に何があったって言うんだよ」
蓮に問われた瑠奈は嘲るように笑う。
「何で蓮くんまでとぼけるの? あれだけ一緒にいたんだから、小春ちゃんの魔法くらい把握してるでしょ」
「あー! もう、うぜぇな」
蓮は苛立たしげに言うと、かえって決然と告げる。
「俺も小春も確かに魔術師だ。でもな、小春は魔法なんか持ってねぇよ。俺が保証する」
突然打ち明けた蓮に小春は驚きを禁じ得なかった。
しかし、感情に任せて口走ったわけではないだろう。
蓮は、勉強は出来ずとも頭は悪くない。考えがあるはずだ。
瑠奈は表情を変えなかった。
二人ともが魔術師であることは、これまでのやり取りから予測出来ていた。