行き場をなくした手を引っ込めると、その場で黙していた蓮が訝しげな顔をする。
「もしかしてあいつ、雄星たちにいじめられてんのか?」
断言はできないものの、十中八九そうだろう。
けれど、それに気づいてもできることなどほとんどないに等しい。
下手に莉子や雄星を刺激すれば、かえって状況が悪化するかもしれない。
それでは雪乃からしても迷惑でしかない。
「とりあえず教室戻ろうぜ。授業始まる」
「うん……」
蓮も同じことを考えているのだろう。深入りせずに切り上げてそう促す。
小春は雪乃を気にかけつつ、B組の教室へと入った。
放課後、小春たちは蓮の先導で彼の親友だという魔術師の家を目指す。
「共闘のこと先にメッセで軽く話したけど、ぜひって感じだったぜ」
「よかったわ」
そんなやり取りを耳に、小春は周囲を見回す。
「ここ、星ヶ丘高校の近くだね」
「ああ、そこに通ってる」
星ヶ丘高校は名花高校の付近にある高校で、最寄りの駅は隣同士だ。
学校間は徒歩で10分もかからない。
ほどなくして、蓮が立ち止まった。
視線の先には三角屋根の洋風な一軒家がある。
表札に“佐伯”とあった。
「奏汰!」
インターホンを鳴らした蓮が呼ぶと、すぐに玄関のドアが開かれた。
姿を現したのは線の柔らかい優しげな男子だった。
「待ってたよ」
────家族が出ている時間帯だから、とリビングに通される。
広々とした空間に余裕をもって各々が腰を下ろすと、奏汰が運んできたお茶を蓮がいち早く配った。
「色々話したいことあるけど、とりあえず自己紹介からでいいかな」
空いたトレーをテーブルの端に置き、奏汰は柔和な笑みをたたえた。
「俺、佐伯奏汰。学年は1個上だけど、蓮とは小学校時代からの付き合い。みんなも敬語とか使わなくていいからね」
表情も語り口も穏やかな彼は、壁を崩しつつ続ける。
「で、これはたまたまなんだけど、あのメッセージを受け取ったタイミングも蓮と同じだった」
「そっから色々と情報共有したりしてんだ」
補足した蓮は、ついでに小春たち3人のことをざっくりと奏汰に紹介する。
「みんなは何の魔法使いなの?」
「わたしは瞬間移動で、彼は雷撃。彼女は……」
そのとき、奏汰は何かに気づいたように小春を見て微笑んだ。
「あ、きみのことは蓮からよく聞いてるよ」
「え」



