翌朝、いつものように合流した蓮に、小春は事の顛末を話した。

 ────壁際まで追い詰められた小春は、絶望の淵で最悪を覚悟した。

 瑠奈がステッキを翳す。

 その瞬間、目の前から瑠奈が忽然と姿を消した。

 唐突で、そして一瞬の出来事だった。

「……え?」

 困惑に明け暮れながら辺りを見渡す。何処にも瑠奈の姿はない。

 やっと動くようになった足を半ば引きずるようにして立ち上がり、小春は駆け出した。

 得体の知れない恐怖が全身に絡み付いてくる。

 これも、何者かの魔法なのだろうか。消えてしまうなんて恐ろし過ぎる。

 小春は瑠奈からでなく、姿の見えない魔術師から逃げたのだった。



「確かに怖ぇ魔法だな。……けど“消える”って、どういうことなんだ?」

 蓮は首を傾げる。

 存在そのものが抹消されるのか、肉体が消滅するのか、いずれにせよ強力過ぎるほどの魔法だ。

「瑠奈も私たちと同じ魔術師なんだよね……? ステッキって何なの?」

「よく分かんねぇけど、発動にそういうのが必要な魔法があるとかじゃねぇか?」

 瑠奈本人が消えてしまったため、真相は不明だ。

 小春は眉を下げ、ぽつりと呟く。

「瑠奈、生きてるかな……」

 蓮は何処までもお人好しな小春を一瞥した。

 自分を害そうとした相手など何故案じられるのだろう。

 友だちだったとはいえ、生きるために自分を裏切った相手なのに。

「生きてたら、また狙われることになる。小春が本当は魔術師だってバレるのも時間の問題だろうしな。他人の、それも()の心配してる場合じゃねぇよ」

 あえて厳しく蓮は言った。

 情けをかけて馬鹿を見るのは、いつだって善意を持ち合わせた優しい人間なのだ。

 小春は押し黙る。

 ああして瑠奈に“刃”を向けられても尚、敵という呼び方には抵抗を感じた。

 瑠奈だって、生きたいだけなのだろう。

 こんなゲームに巻き込まれさえしなければ、手を汚す必要もなかったはずだ。

 そんな小春の心情など露ほども知らない蓮は「とにかくさ」と話を切り替えた。

「瑠奈を消した魔術師、見つけたいとこだな。小春を助けてくれたってことだろ? もしかしたら、味方になってくれるかも」