小春は、はっとした。確かにそうだ。
「よし、じゃあ放課後に会いにいこうぜ。近ぇし」
「……その人も仲間になってくれるかな」
「ああ、もともと俺と協力してたしな。……みんなさえよければ」
ふたりの言葉に琴音たちは頷いた。
「わたしは大歓迎よ。向井の親友なら瑠奈みたいなこともないだろうし」
「僕も構わない」
少し意外に思った。
一匹狼を好む琴音と慧が進んで仲間を持とうとしている。
「決まりだな。連絡しとく」
「今日の今日で大丈夫なの?」
「大丈夫、あいつ暇してるし。入院って体で休んでるからさ」
「どういうこと?」
「会えば分かる」
そろそろ昼休みも終わる頃だ。
「じゃあ、放課後に」
あとから校舎に入った小春と蓮は、廊下の突き当たりに不穏な3つの人影を見つけた。
A組の教室前だ。小春は歩調を速める。
「何してるの? 莉子」
人影のひとつ、朝比奈莉子に声をかける。
彼女は驚きつつ振り返り、顔を引きつらせた。
一緒にいた莉子の彼氏である斎田雄星も、ばつが悪そうに顔を背ける。
床に這いつくばるように俯いている3つ目の人影は、五条雪乃だ。
和泉同様、彼女たちとは1年の頃に同じクラスだった。
「誰かと思えば小春じゃーん。何って別に何もしてないよ。ねぇ?」
「お、おう」
傷みかけた長い金髪をかき上げる莉子。
彼は頷いたものの、馬鹿正直であるがゆえに嘘がつけず、気まずそうに目を泳がせていた。
どう見ても、行き着く答えはひとつだけだ。
「あのさ────」
「ごめーん、もう時間だから戻るわ。じゃあね」
小春の言葉を遮り、手を振って教室に入っていった莉子に雄星が続く。
ひとことで言えば莉子はギャル、雄星は不良、といった具合だ。
それに対して雪乃は大人しく控えめな性格。妙な取り合わせだった。
ふたりが去っても、彼女は下を向いたまま顔を上げない。
小さく肩が震えているのが分かる。恐らく、彼女は────。
「大丈夫……?」
小春は手を差し伸べた。
その表情は長い髪に隠れて見えない。
「……っ」
雪乃は手を借りることなくひとりで立ち上がると、何も言わずにその場から駆けていった。



