『もしもし……』

「小春! 平気か。怪我とかしてねぇか!?」

『だ、大丈夫』

 電話口の向こうから聞こえる小春の声は弱々しかったが、無事であることは確からしい。

 蓮は心底安堵した。この手は和泉のものらしい。

『ごめん。私、勝手なことして……』

「いいって、そんなの。それより、今何処にいるんだよ?」

『今……家にいる。怖くて、逃げた』

 小春は泣きそうな声音で言った。余程の思いをしたのだろう。

 ともあれ、家にいるならば脅威からは脱したと見て良さそうだ。

「良かった。瑠奈からは逃げ切れたんだな」

『ち、違くて……』

「違うって、何だよ。何があった?」

 不意に冷たい風が吹き付ける。河川敷の草がざわめく。

 ほとんど日が暮れ、辺りはかなり薄暗い。

 黒い影のように色を失った木々が、梢を鳴らした。

『消えちゃったの、瑠奈が────』