それは、大雅も悩んだ末に出した結論だった。

 瑚太郎も瑚太郎なりにヨルと戦っているようだが、日中にああして不意に人格を乗っ取られ、さらには仲間に手出ししたことを考えると、もう隠してはおけない。

 蓮と小春は心して聞く。

『実は、ヨルは……冬真の一味だ』

 一瞬、呼吸を忘れた。

 衝撃的かつ酷な事実だった。

『もう俺も何があるか分かんねぇから、一旦この事実を二人にも共有しとく。このことを知ってるのは瑚太郎本人と律、瑠奈だけだ』

 先んじてヨルの正体を知っていた瑠奈や律には、瑚太郎の思いや事情を含め、大雅が密かに説明していた。

 ひとまず皆には伏せておき、瑚太郎に任せよう、と伝えていたのだった。

『けどな、一昨日のこともあって、律はさっさと打ち明けて対策を練るべきだってやかましいんだ』

 一昨日のこと、と言うと、奏汰がヨルに襲われたことだ。

 確かに瑚太郎の状態によっては、あんなことが再び起きないとは言い切れない。

 凶暴なヨルを、傷つけずに制御する方法は最早ないに等しいのだ。

 彼のことは、早急に対処すべき問題だった。

『……だから今日、俺と律で瑚太郎に会って話つけてくる。そのことをあらかじめ伝えとく』

 大雅の言葉は理解出来る。
 瑚太郎に、か、ヨルに、かどちらなのだろう。

 その口振りは何とも言えない胸騒ぎを引き起こした。

「どういう意味だよ。何か不穏な感じ出すのやめろよ」

『……悪ぃ。でも、マジでもう誰がどうなってもおかしくねぇだろ? ……続くぞ、この死の連鎖』

 そんなこと、と言いかけたものの、小春は結局口を噤んだ。

 そんなことない、などと無責任なことは言えない。

 そんなことにはさせない、と言えればよかったが、それはもっと無責任だろう。

『十二月四日が着々と近づいてきてる。時間がねぇ。分かるだろ、色んな変化。もう今となっては、魔術師の死が事件にすらならねぇ。運営側は魔法で、魔術師以外の洗脳を終えたんだよ』

 その言葉には説得力があった。

 実際、奇妙な様子を目の当たりにしている蓮にとっては、特に。

『小春が祈祷師から聞いた通りなら……十二月四日に存在してる高校生は、東京でたった一人だけ。そんな事態を迎えても、今や不信感を抱く奴は誰もいねぇだろーな』

「……改めて言葉にすると意味不明だな。何がしてぇんだ?」

 蓮は怪訝そうな顔で眉を寄せる。

 運営側はそんなことして何になるのだろう。結局、何が目的なのだろう。

『さぁな。それを考えるのは任せる。俺たちはあいつ()決着(ケリ)つけるから』

 そんな大雅の言葉に、蓮は弾かれたように顔を上げた。

「ちょっと待て、大雅! あいつらって誰のことだよ」

『…………』

 大雅は答えなかった。

 ────これからしようとしていることに対しては、相当な覚悟を要した。

 そして、悟っていた。これが最後の機会になる、と。

 だからこそ、いつもは綻びなど見せない彼でさえ、つい口を滑らせてしまった。

 死の連鎖が続く。仲間が一人また一人と死んでいく。

 訪れた不穏な空気が這うように肌を撫でる。小春と蓮は嫌な予感を拭えない。

 瑚太郎が、否、ヨルが冬真の仲間で、大雅と律が会いに向かっている。

 その時点で“あいつら”が誰を指すのかは明白だった。

 ぷつ、と通話が切られる。