「……はあ?」
霊媒師が驚きと非難の混じった声を上げた。
すぐそばにいる祈祷師が何か言おうとしたけれど、先んじて小春は続ける。
「異能とか、特別な力なんていらない。傷がすぐに治らなくてもいい。老いることも死ぬことも当たり前だよ。……だって、人間だから」
「だーかーら、それがきみたちの欠点だって言ってんの」
「でもわたしはそれでいいの。それがいいの。普通の人間でいたい……いたかった! 平凡な高校生のままでいたかった!」
何気ない日常を思い出すと、じわ、と涙が滲んだ。
「特別な何かなんてなくてよかった。ただ……ただ、蓮やみんながいてくれたら、それでよかった……っ」
こぼれそうになる涙をどうにかこらえる。
「返してよ……。あなたなら、生き返らせることができるんでしょ。みんなを返して! こんなゲームの犠牲になった人たち全員、蘇らせてよ。わたしたちの日常を返してよ……!」
永遠のように感じられる静寂が落ちた。
自分の呼吸や心音が耳元で聞こえる気がした。
「…………」
目を伏せて黙していた陰陽師が、ややあって口を開く。
「────そなたは、何を差し出す?」
その言葉に小春は息をのんだ。
「忘れたわけではあるまいな? わたしは最初から言っている。何かを得るには何かを差し出せ、と」
「わたしは、どんな代償も厭わない」
そう答えるまでに1秒もかからなかった。
覚悟ならとっくに決まっている。
吟味するようにしばらく眺めていた陰陽師は、わずかに口端を持ち上げた。
「……いいだろう。欠けた歯車は、妖の中から探すとしよう」
彼の出した答えに、3人は驚愕を禁じ得なかった。
まさか小春の申し出を受け入れるとは。
「え、マジで? いいのー?」
念押しする祈祷師を無視し、彼は悠々と歩んでくる。
「ただし、当然ながら人間たちに与えた異能は返してもらう。その代わり、代償も返還しよう」
「本当に……!?」
予想外の言葉だった。
これで元に戻る────平穏な日常に戻れる。
「勘違いするな、温情などではない。ただ、やはり人間ふぜいには天界へ昇る資格などなかったのだと判断したまで。もう関わりたくないものだ。永遠に下界で燻っているのが似合いだな」
天界とは名ばかりの異空間だ、と言っていたくせにひどい言い草だ。
けれど、話が通じた。すべてを懸けた甲斐があった。
いまならこの程度の悪態は聞き流せる。
「────して、そなた。いかなる代償も厭わぬと申したが、二言はあるまいな」
小春は黙って見返す。
当然、ない。
「では……愚かな魔術師気取りどもが払った代償。それをすべて、そなたひとりに背負ってもらおう」
「……!」



