ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 ぽんと祈祷師は小春の肩を叩いた。
 霊媒師が悠々と言葉を繋ぐ。

「この身体は便利だよー。魔術師になったら、きみも制限なく異能を使えるから安心してよね。大抵の傷は即治癒するし、不老不死だし、人間がいかに弱っちい生きものか思い知るよ」

「貴様のことは気に食わないが、我々も規則には従わねばならぬ」

 陰陽師は淡々とした声色で続ける。

「祈祷師の言葉通り、唯一の生存者となった貴様には、魔術師となり天界にて明かし暮らす権利が与えられた。それに伴い、そなたを(あやかし)とす」

「…………」

 小春は口をつぐんだまま俯いた。

 もう、頭も心も空っぽだ。
 色々な感情が一気に湧き起こり、そしていまは一気に凪いだ。

 蓮もみんなも誰もいないこんな場所で、永遠に生き続けることに何の意味があるというのだろう。

 いっそのこと、もう死んでしまいたい。
 彼らと一緒に死んでしまえばよかった。

 そうしたら、独りにならずに済んだのに。

(こんなこと考えてたら、蓮に怒られるかな……?)

 ああ、でも本当に……心からそう思う。

「ほい」

 おもむろに祈祷師が手を差し伸べる。

 ほらほら、と催促(さいそく)され、反射的に手を伸ばすと引っ張り立たされた。

 彼は小春の手を引いて、陰陽師のもとへ連れていく。

 もうどうでもいい、どうにでもなれ、と半ば投げやりな気持ちになっていた。

 そのときだった。
 ふいに頭の中で蓮の声が響く。

『絶対、諦めるな』

 はっとする。
 凪いだはずの感情が揺れ始める。

『何があっても……小春なら────』

 彼はその先に何て言おうとしたんだろう。

 ────きっと、どんな状況に陥っても打開できるはずだということを伝えてくれようとした。
 そう信じたい。

「…………」

 足を止めた小春は、祈祷師の手を振りほどく。

 凜とした眼差しでまっすぐに陰陽師を見据えた。

「あなたはどうして……関わりたくない、って人間を見下してるくせに、魔術師を迎えようとするの?」

 (あやかし)がその立場を担えるのなら、人間に固執する必要なんてないのに。

 すると、歩み出た霊媒師が代わりに答える。

「今回のバトロワはわたしが考えたことで、初めての試みだったんだよ。醜い人間たちによる醜い争いの果てを見たかったの。陰陽師じゃなくて、わたしの提案ってわけ」

「……だとしても、あなたに拒否権だって決定権だってあったでしょ」

 すっ、と陰陽師は目を細め、小春を見下ろす。

「何が言いたい」

「……本当は、どこか期待してるんじゃない? 人間の身勝手さと利己主義加減と醜さの中にある、何か……崇高(すうこう)な美しさみたいなもの。それを探してる」

 しん、と水を打ったように静まり返る。
 一拍置き、陰陽師は声を上げて笑った。

「ばかなことを。貴様はどこまで夢想家(むそうか)なのだ」

「それをわたしが持ってるとは言わないけど……」

「当然だ、思い上がるな。そんなことはどうでもいいのだ。さっさと────」

「わたしは」

 陰陽師の言葉を遮り、小春は毅然と言ってのける。

「わたしは、魔術師になんてならない」