祈祷師は小春の傍らに屈んだ。
「ボクたちはさ、ゲーム中ほとんどの異能を解放してあげたの。いろーんな魔術師たちのいろーんな能力を目の当たりにしたでしょ? でもその中で唯一、存在しない異能があった。“これがあったらなぁ”ってときがキミたちにも確かにあったと思うよ、痛いほどね」
もったいつけて微笑み、小春の耳元に顔を寄せる。
「それはね────“死者蘇生”」
息をのんで顔を上げると、祈祷師はけたけたと笑った。
「そうだよねー。あったらよかった、って思うよね? あのコもあのコも、生き返らせることができたらどんなにいいか」
「死者蘇生、なんて……できるの?」
「モチロン。陰陽師にかかればワケないんだな、これが」
それは、“魔術師候補”のプレイヤーたちも陰陽師以外の妖も使うことができない唯一の異能だった。
「ま、ゲーム中に使えないのは当然だよね。生き残りをかけたバトロワだもん。生き返っちゃったらゲームが崩壊する」
霊媒師はそう言うと、くるりと傘を回す。
「あ、そうそう。ついでに代償についても教えてあげるね。本来、異能ってのは人間が扱えるような代物じゃないの。人間は天界に足を踏み入れることも許されてない」
「だけど、異能と引き替えに代償を払うことで、天界への“切符”を買うことになる。その代償のお陰で陰陽師の力を借りることができて、人間でも異能に耐えられる身体になるってわけ」
言葉を繋いだ呪術師が悠々と扇子を仰いだ。
そのためにゲーム中、異能の会得には必ず代償が必要で、ひとつ目の能力は“ガチャ”からしか手に入れられない縛りがあったということだろう。
「……そういうわけだが、これでもまだ我々に楯突く気があるか?」
燃えるような陰陽師の紅い瞳に捉えられる。
小春は呆然として言葉を失っていた。
……ああ、これで振り出しだ。そう思った。
いや、ちがう。こちらは自分以外の仲間をすべて失った。
けれど、その犠牲も結局は無意味だったのだ。
命を懸けて戦ったのも、無駄だった。
(傷が癒えるとかいう次元の話じゃない……)
こんなふうに蘇ることができるなら、何度倒したって仕方がない。
(何のための戦いだったの……?)
「何はともあれ、ミナセコハル。おめでとう~! キミは見事、新たな魔術師に選ばれました!」
そう言った祈祷師は、ぱちぱちと楽しげに拍手する。
「え……?」
小春は眉を寄せた。
陰陽師の話から、ここ数か月の出来事は予選であり、序の口だという解釈だったのに。
「それがね……実は、ほかでは唯一の生存者がいなかったんだ。みんな、期日までに決着がつかずに強制終了ってパターンがほとんどかしらね」
実際、期日までにたったひとりの生き残りになることなんてほとんど不可能な所業であり、これまでに達成した者はいない。
つまり、東京以外に高校生はもう存在していないのだ。
けれど、小春たちもそのことにまったくもって気がつかなかった。知らなかった。
洗脳されているのは、自分たちも同じだった。
「あんたたちみたいに直接挑んできた奴もいたけど、返り討ちに遭ってゲームオーバー。まあ、あんたからしたら仲間を失って自分だけが生き残る、って後味の悪い最悪の結末かもしれないが、実はこれは凄い結果なんだ」
「ホーント、まさかきみが生き残るとはね」
「コハルちゃん。魔術師になってボクたちの仲間になるってことで、キミも妖になってもらうからね。あ、キミは別に何もしなくていいよ。陰陽師に任せといて」



