ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 だから、殺し合いなんてしたくなかった。
 殺さないと決めた。

 特別な力を得たのなら、ほかの誰かを守るために使うべきだと思った。

 そうやって掲げた理想や信念は、正義感から来るものだったかもしれない。

(でも、それだけじゃない……)

 それだけじゃないということに、本当は気がついていた。

 だからこうして責められるたび、深く言葉が突き刺さった。

 蓮もほかの仲間たちもみんな、買い被りすぎだ。
 本当はただ、怖かっただけ。怯えていただけ。

 一度でも手を汚してしまったら、もうあと戻りできなくなる気がして。
 日常に戻れなくなる気がして。
 みんなを失う気がして。

 間違ったことはしたくなかった。
 実際、間違ったことはしていない。

 奇妙な話だけれど、それでも必死に正当化していた。
 そうしていなければ、自分を守れなかった。

 きっと流されてゲームに飲み込まれていただろう。
 そうしないでいられたのは、自分ひとりの力じゃない。

 みんなが、仲間がいたから。

 だから、自分自身に課した(いまし)めを誰よりも重んじていられた。

 小春は涙を溜めたまま両手を握り締めた。
 毅然と顔を上げる。

「身勝手なのはそっちでしょ……! このゲーム自体、あなたたちの身勝手で成り立ってる!」

 小春が反論したことに、陰陽師はわずかに驚いたようだった。

「利己的なのもお互いさま。自分たちのためだけにわたしたちを巻き込んで、何人も殺して、殺させて。従わなかったら制裁……? あなたたちのルールなんて知らない。押しつけないでよ!」

 いっそう手に力を込めて、息を吸う。

「諦めが悪いのなんて、当たり前でしょ。わたしはすべてを背負ってここにいるの! みんなに託されたすべての希望を信じて、叶えるために来たの! 簡単に諦めてたまるか……っ!」

 異能なんて使っていないのに、心臓がうるさかった。
 息が切れた。手が震えた。

(……怒ってるんだ、わたし)

 その事実に自分自身、少し驚いた。
 恐怖よりも怒りが(まさ)っている。

 言い返せたのはきっと、みんなのお陰だ。蓮のお陰だ。

 間違ったことはしていない。

 それなら、気おくれしなくていい。
 遠慮も自分を責める必要もない。

「────言うじゃん、ちょっと意外」

 ふいにどこからか少女の声がした。

「何だかんだで芯が強くなったんじゃない? ウィザードゲーム様々だね」

「誰……?」

 すぅ、と空間が歪んで、誰もいなかったはずのそこに少女────霊媒師が現れた。

「え……」

 どうして生きているのだろう。

 奏汰は確かに“倒した”と言っていたはずなのに、見たところ彼女には傷ひとつない。

「悪いね、陰陽師。聞き耳立てるつもりじゃなかったんだが」

「じゃーん、ボクも再登場。ザンネンだったね、命からがらの勝利だったのに。実は生きてました~」

 空間を裂いて、呪術師と祈祷師も現れる。

(何で……。何で?)

 小春は呼吸を忘れ、ひたすらに戸惑った。

「……最初から潜んでいただろう」

 陰陽師は3人を見やり、呆れたようにため息をついた。
 小春が目覚めた時点で、全員がここにいた?

「…………」

 ざらざらとした砂粒が肌を撫でているような感覚を覚える。

 絶望感に胸を貫かれ、瞳が揺れた。
 ふいに力が抜けて、その場にへたり込む。

「いいねー、そのカオ。信じらんない、ってカンジ? 何が起きてるか教えてあげよっか? ま、簡単な話なんだけどー」