「さあね、やってみれば? ……ボクは保証しない」
小春の瞳が揺らいだ。
陰陽師に会えなければ、ここまでの戦いは、みんなの犠牲は、すべて無意味だったことになる。
「……やれ、小春」
蓮は静かに言い放った。
どちらにしても、祈祷師の最期はいまだ。
強い覚悟をもって放った光弾が、まっすぐに祈祷師の心臓を射抜く。
どさ、と抵抗なく彼はその場に倒れた。
────終わった。
炎が消えて訪れた静寂の中、自分たちの荒い呼吸が響く。
つ、と耳から血が伝い、割れるような頭痛に苛まれる。
蓮もまた、あちこちから流れてくる血を震える手で拭った。
かなり無理をした。
こらえていた反動が、いまになって容赦なく襲ってくる。
「蓮……」
苦悶する彼を不安気に窺った。
小春はだいぶ落ち着いたものの、彼はかなり苦しそうだ。ここまでのことは初めてだ。
「ちょっとだけ、休んでもいいか……?」
「う、うん。もちろん……」
壁に背を預けた蓮は、ずるずると滑るように座り込む。
手足に力が入らなくて、立っていられない。
腰を下ろしても身体の怠さは治まらなかった。
槌で殴られているような頭痛は悪化していき、座っているのに目眩のせいで平衡感覚を失う。
小春はそっと隣に屈んだ。
「まだ、こっからだってのに……。悪ぃ、不甲斐ねぇな」
────そう、まだすべてが終わったわけではない。
陰陽師は恐らく祈祷師よりも強力だ。
祈祷師相手でもこれほど苦戦したというのに、たったふたりきりで、しかもこんな状態で大丈夫だろうか。
蓮は不規則な呼吸を繰り返す。
既に相当なダメージを負った。
傷も痛むし、反動も苦しい。
身も心も疲弊している。
けれど、ここで倒れるわけにはいかない。
小春をひとりにはできない。
「……おまえって凄ぇよな」
ほとんど口をついてこぼれた。
重たい手をもたげてその頭に載せる。
「え? なに、急に……」
幾度となく危険な目に遭ってきた。
時に醜い人間の本性を目の当たりにした。
だけど、どんな困難に晒されても、一度たりとも信念を曲げなかった。
ばかな理想だと嗤われ、偽善者だと蔑まれても。
出会った頃から変わらない。
優しくて、でも決して弱くなんてない。
何があっても、あたたかい強さを忘れない彼女。
(だから、俺は小春を────)
「……っ」
こはる、と呼びかけた蓮は、ふいに咳き込んで血を吐いた。
いくら休んでも、反動による苦痛は一向によくならない。
どく、どく、と心音が大きく脈打っていた。
視野の端を、じわじわと黒い触手のような影が侵食してくる。
「蓮、大丈夫? 蓮……!」
耳鳴りがして、その声は水の中にいるみたいにぼんやりと遠く霞んだ。
「…………」
ふいに、昨晩のことが蘇った。
スマホの画面に表示された文字。
────寿命、80年分。
(……そうか)
時間切れなのだ。
天界で異能を使った反動が、本来の寿命を縮めたのかどうかは分からない。
けれど、どうやらここまでのようだった。
「ごめんな、小春……。俺、ここで終わりみてぇだ」
彼の言っている意味を即座に理解できず、言葉が出なかった。
「実はさ……代償が“寿命80年分”だったんだよな」
その途方もない数字を耳にした小春は、祈祷師の言葉を思い返した。
『代償の方はツイてなかったみたいだけど』
あれはそういう意味だったのだ。
「そんな……。うそ。何で」



