「行きますわよ、紗夜。前と同じように……」

 それが呪術師と相対したときのことを言っているのだということはすぐに分かった。

 うららが相手を引き寄せ、紗夜が毒を食らわせる、という作戦だろう。

 あのときは失敗したが、今回は易いはずだ。

 うららが魔法を繰り出そうとすると、依織はにやりとほくそ笑んだ。

 地面の芝生が触手のように伸び、うららの手足を拘束する。

「な……っ」

 うららは動揺する。紗夜も困惑した。

 ……おかしい。これは依織の能力なのだろうか。

 “魔法で魔術師を殺して奪う”という手段のない依織にはガチャを回すしかないが、先ほどの口振りではそれを忌避していた。

 依織でないのなら、近くに隠れている協力者がいるということになる。

「分が悪いかもよ、うらら。何か得体が知れない……」

「そう、みたいですわね。紗夜、ひとまずこれを何とかしてくれないかしら?」

 うららは芝生の拘束を一瞥し言った。

 毒を繰り出した紗夜は、それで芝生を腐らせようとする。

 しかし、その前に、先ほどのように足元の芝生が触手の如く伸びてきた。

「紗夜!」

 はっとした紗夜は慌てて飛び退く。捕まる寸前で回避出来た。

 しかし、間髪入れずに着地地点から再び芝生が伸びてくる。

 さすがに避けきれず、紗夜も捕まった。

 しかし、瞬時の判断で自身に毒性を帯びさせ、まとわりつく芝生を枯らした。

 奇怪ではあるものの、芝生であることに変わりはないようだ。

 依織はその様を見て目を見張った。

(火炎もだけど……この能力も植物魔法の天敵と呼べるんじゃ?)

 一方、うららは安堵の息をつく。

 このよく分からない魔法に対し、紗夜には対抗手段がある。

「……っ」

 しかし、紗夜は強い頭痛を覚えた。頭の内側から槌で殴られているようだ。

 毒魔法の中で、自身が毒性を帯びる、というのが最も大きな反動を伴う。

 ふらりとよろけ、思わず座り込む。

「ごめん、うらら……。もうしんどい」

「馬鹿ね、普段から全然ご飯食べないから体力がないんですのよ。もう、肝心なときに!」

「…………」

 依織は呆気にとられた。

 二人は状況が分かっていないのだろうか。何なのだろう、この緊張感のなさは。

(まぁ、いいや……)

 紗夜に植物攻撃が効かない、と分かったときは焦ったが、この分なら脅威ではない。

 結果的にどちらの動きも封じた。

 にぃ、と笑った依織は鉈を振り上げ、走り出す。

「死ね!!」