小春は至の死を再度意識し、咽び泣いた。

 感情が強く揺さぶられる。先ほどの比ではない。

 与えられてばかり、世話になりっぱなしで、何も返せないままの別れだった。

 悔しい。
 己の無力さが。
 大切な色々を忘れてしまっていたことが。



「莉子と雄星……、あいつらも魔術師だったんだな」

 蓮は小春の背を摩りつつ、意外そうに呟く。

 だが、そうであれば雪乃の言葉の意味が分かったような気がした。

『何だったら、俺が言ってやろうか? 莉子と雄星、あいつら二人とも締めて────』

『いいよ、それは。あたしがやってるから』

 ────復讐しては時を戻しているのだろう。

 雪乃のあの性格からして、何度殺しても足りない相手を、実際に何度も殺している。

 何度も殺すために、巻き戻しているわけだ。

「八雲を失ったのは……痛手だな」

 律の言いたいことは分かった。

 殺さずして冬真を封じる手段を失ったのだ。

 冬真だけでなく、他の敵にしても言えることだが。

 そして、アリスの裏切り────よりにもよって、まさか冬真につくとは。

 こうなった以上、冬真にはこちらの情報は筒抜けだろう。

 人物も魔法もすべて把握しているはずだ。
 拠点もそうだ。もう廃トンネルにも廃屋にも戻れない。

 アリスは“情報屋”を自称するだけあり、何だかんだで情報収集能力に長けている。

 ここがバレるのも時間の問題だ。バレたらすぐにでも襲撃されるだろう。

「……そうだ。百合園さんの家を新しい拠点に出来ないかな」

 ふと、奏汰が呟く。

 彼女の家なら広さも充分、防犯設備も万全だ。

 運営側はともかく、冬真たちの侵入は防げそうな気がする。

 彼は「勿論、彼女が迷惑じゃなければだけど」と続けた。

「それ、いーんじゃね?」

 大雅が賛同を示す。他の面々からも反論は出ない。

 早速、顳顬に触れ、テレパシーでコンタクトを図る。

 しかし────。

 うらら、と呼びかけようとした瞬間、ぷつりと意識が途切れた。

 切断されてしまった。

「うらら……? おい、うらら!」

 大雅は慌ててその名を呼んだ。

 しかし、一向に繋がらない。

 場に緊迫感が流れる。胸中に嫌な予感が渦巻く。

(この、感じは────)

 大雅は戸惑う。

 そんなはずない、と思うが、しかしこれはそういうこと(、、、、、、)だ。

「どうした?」

 さっと顔色を悪くした大雅を訝しみ、蓮は尋ねた。

 彼は目を伏せたまま、そっと顳顬から手を離す。平板な声で言を紡ぐ。

「死んだ……。うららが」

 端的なその言葉は、かえって重々しくその事実を知らしめた。

 驚愕と動揺が波のように広がる。

 何故、急にそんなことになったのだろう。
 何があったというのだろう。

 全員がその疑問を抱いたであろうとき、大雅にテレパシーが繋がれる。

『桐生……』

 いつにも増して陰鬱な紗夜の声だった。

 彼女は無事なようだ。

「紗夜、何が────」

『たった今、うららが亡くなった……。合流してわけを話す』