────その後、二人は光学迷彩の結界に入ったまま廃屋を出た。

 いつの間にか、こうして姿を隠すことが習慣になりつつあった。

 蓮から送られてきていたメッセージに引っ張られているのだろうか。

 祈祷師だか何だか知らないが、得体の知れない敵からは隠れておくことがベターに思えるのだ。

 名花高校周辺を歩いてみる。

 蓮を捜す意図もあったが、至は正直、それで少しでも小春の記憶が戻らないか期待した。

 だが、結果は芳しくなかった。

 最後に休憩がてら、小春と出会った公園へ向かう。

 すると、半狐面をつけた男からの襲撃に遭っている四人の高校生を発見した。

 火炎、水、氷……もう一人は不明。

(相手は……。相手も水?)

 同じ魔法が存在するのだろうか。否、そんなはずはない。

 不意にぴんと来た。もしかして、と至は直感的に閃く。

「小春ちゃん、あのキツネくんを撃って」

 小春は戸惑った。

「え?」

「大丈夫、あいつは魔術師じゃない」

 ……たぶん、と心の中で付け加えておく。

 小春は言われた通りに光線を撃ち込む。

 怯んだ祈祷師を至が眠らせると、閃光とともに彼は消えた。



 至の眠気はかなり限界に近かった。

 もう気を抜けば瞼が落ちてくる。身体が重くだるい。頭もぼんやりと霧が晴れない。

 やはり三人が限界だ。

 しかし、眠る訳にはいかない。誰を起こしてもまずい。

 何とか睡魔をあしらいながら、彼らの名前を聞いた至は驚くと同時に感激した。

「えっ、蓮……? 君が? 向井蓮くん?」

「? そうだけど」

 やっと見つけた。向井蓮。

 見た限り、彼が悪意ある人間とは思えなかった。

 至は思わず小春を振り返るが、影からは戸惑いが見て取れた。

 今の小春の状態を考えると、いきなり突き出すのも酷だ。

 存在を教えはしたが、今日は日菜にも会っていないため、今は至のことしか分からない。

 ────至は結局、小春のことを一旦伏せておくこととした。

 蓮と会えただけでも、彼の人となりが分かっただけでも、充分な収穫だった。

 彼らの拠点も聞いておきたいが……と、色々考えながら聞かれることに答えるも、欠伸が止まらない。

 思考もまとまらない。本当に限界だった。

「ごめんけど、そろそろ限界。今日のところは帰る」

「な……、おい! 逃げるのかよ!?」

「あともう一つ悪いんだけど……あいつも起きちゃうかも」

 蓮の感情は理解出来る。怒って当然だ。

 それでも、今はとても冷静に話していられる状態ではない。

「至くん……」

 小春が案ずるようにその名を呼んだ。

 光学迷彩の結界に引き込み、目眩しのために閃光を放つ。

 至とともに飛行し、拠点である廃屋へ帰還する。



 その晩、二人は眠りに落ちてしまったのだった。

 至は睡魔に抗い切れず、また、目覚めた小春には何の記憶もなくなっていた。

 魔法が解けたことでアリスも目を覚まし、三人は廃トンネルへと向かった。

 そこから小春が河川敷に粉塵を発見し、彼女たちは文字通り飛んでいく。────あとは知っての通りだ。



 その場にいなかった律、紅には大雅が念のため記憶を転送しておいた。

「……っ、至くん……」