「あと、移動先には制約があるわ。わたしが直接見たか、訪れた場所じゃないと無理」
それは“ゲームバランス”を考慮した運営側の妥当な措置と言えた。
その制約がなければ、極端な話、国内や世界各地の危険地帯へ相手を飛ばしてしまえば無敵ということになる。
「ふーん、なるほどな。それ込みでもやっぱ強ぇよ」
その感想には小春も同意見だ。
けれど────と、琴音の左目を見た。
いつからかずっとつけている眼帯だけれど、もしや強力な異能と引き換えに失ったのではないだろうか。
「……左目が気になる?」
琴音は微笑み、眼帯に触れた。
「あ、えと……ごめん。そんなつもりじゃ────」
「気を遣われても困るし、いまのうちに話しておくわ」
普段と変わらない調子で言葉を紡ぐ。
「わたしの左目はもともとほとんど見えてなかったんだけど、ガチャの代償になって完全に役目を終えたわ。眼球もなくなったから、あえて見せたりはしないけど」
何でもないことのように言い、サンドイッチを頬張る。
小春は相槌以上の、かけられるような言葉を見つけられずにいた。
「……ちょっと、ふたりとも変な顔しないでくれる? わたしとしてはラッキーだったと思ってるのよ。犠牲にできるのは、むしろ左目以外にないんだから」
まったく無意識だったけれど、蓮ともども“変な顔”をしていたようだ。
琴音は小さく笑みながら、ふたつ目のサンドイッチに手を伸ばしていた。
「なあ。……昨日の話に戻るけど、何で小春からも隠れてたんだ?」
「当然でしょ、その場にいたらわたしが魔術師だってバレるじゃない。水無瀬さんが魔術師かどうか分からなかったし、下手に正体を明かすわけにはいかないわよ。人助けが趣味なわけじゃないしね」
琴音がそう答えたとき、ちょうど屋上のドアが開いた。
錆びた重々しい音に、小春と蓮は振り返る。
「おまえ……」
「望月くん?」
現れたのは、クラスメートの望月慧だった。
頭脳明晰で成績優秀。
琴音同様にひとりを好む慧ではあるものの、テストはいつも学年トップで、その存在感を発揮していた。
「そう、彼も魔術師」
琴音が言うと、慧はボストンメガネの細いフレームを押し上げた。
「……勝手に明かさないでくれ」
「あら。隠し通す気ならそもそもここへは来ないでしょ」



