急速に込み上げてきた孤独感に飲まれて、愕然と半ば放心してしまう。
そのとき、ふいに頭の中で“彼女”の声が響いた。
『わたくしはここまでですけれど……必ず、目的を果たして。紗夜……生き残って』
────そうだ。諦めるわけにはいかない。
いま信じられる道はそれだけ。
手にした残りの注射器を3本とも、すべてその場に捨てた。
音を立てて割れると、床に毒が広がる。
シュウウ……と毒素を含んだ煙が上がった。
予想外の行動に目を見張った呪術師は、吐き捨てるように笑う。
「諦めたのかい? それとも、気でも狂ったか」
そのときだった。
がく、と呪術師が膝をつく。
唐突に力が入らなくなって、戸惑いながら立ち上がろうとするも身体が言うことを聞かない。
「な、何を……」
「……あなたの負け」
レースの手袋を噛んで外した紗夜は歩み寄ると、左のてのひらで彼女の顔を覆う。
「最初に刺した注射……。あれは筋弛緩剤。わたしの作った毒じゃないから、わたしの血で解毒なんてできないの」
「……!」
紗夜の手が禍々しい赤紫色の靄をまとうと、呪術師の顔色が蒼白になって血管が浮き出た。
「……ぐ……っ!!」
見開いた双眸は充血し、涙のように血があふれ出す。
「……っ」
紗夜は思わず顔を歪める。
骨が、血管が、身体中が痛い。激痛が駆け巡る。
割れるような頭痛を覚えながら、それでも不敵な微笑みを浮かべた。
苦悶する呪術師を見下ろす。
「二度と負けないって言ったでしょ……?」
彼女の身体が小刻みに痙攣する。
隙間風のような呼吸を繰り返しながら吐血した。
筋だらけの青白い顔で目を剥く。
苦しみ喘ぎ、大きく開いた口から血と唾液が滴る。
もとの美貌は見る影もない。
紗夜はようやく手を離した。
「生意気な……小娘が……ぁ……っ」
倒れた呪術師は血走った目で憎々しげに睨めつけたものの、数度痙攣したあとすぐに動かなくなった。
さすがに回復する様子もない。
「はぁ……はぁ……」
ふいに目眩がした。
どくん、どくん、と心臓が強く大きく脈打つ。
拍動のたび全身に激痛が走る。
息が苦しいのに、どれだけ吸っても肺に酸素を取り込めない。
「ごめん、うらら……。生き残る、のは……無理そう……」
力が入らず、平衡感覚を失った。
気づけば血の海の中に倒れ込んでいて、赤い飛沫が跳ねる。
「わたしも……そっちに、行く、から……叱って」
ふ、とやわく笑った紗夜は安らかに目を閉じた。
◇
瞬いた次の瞬間、奏汰は屋上にいた。
ふと、仰いでみると、一切の光もない漆黒の闇が広がっている。
夜空かと思っていたけれど、ちがうようだ。
「……どうして名花高校に?」
「そんなのテキトーだよ。陰陽師の気まぐれ」
真っ白な服に身を包んだ霊媒師が、悠々と暗がりから現れる。
「気まぐれ……?」
「そう。だいたいこのゲーム自体、ほとんどその気まぐれで決まってるし」
彼女はくすくすと笑った。
「きみたち、最初に考えたでしょ? “何で自分たちが?”、“何のためにこんなことを?”って……。その答えのほとんどが“気まぐれ”。陰陽師のだったり、ダイスのだったりはするけどねー」
「…………」
「やっぱ、ゲームといえばダイスでしょ」
怒りを覚えた奏汰は思わず拳を握り締めた。
なんて理不尽なのだろう。
「……そんなわけの分からない気まぐれなんかに俺たちは命を賭けてたってこと?」
顔を上げて鋭い眼差しを突き刺す。



