外へ飛び出そうとしたものの、すんでで立ち止まる。
「おい、マジかよ」
「うそ……っ」
足下には深淵の闇が広がっていた。
地面がない。
外が暗いのは深夜だからだと思っていたけれど、そうではなかった。
この名花高校を模した空間が、闇に浮かび上がっているのだ。
「忘れたの?」
のんびりと歩み寄ってきた祈祷師の声にはっと振り返る。
「ここは“天界”という名の異空間。キミたちの知ってる場所にどれだけ似てても、別の世界なんだよ」
にんまりと口端を上げた。
「もっと分かりやすく言おうか? もうキミたちに、逃げ場はない」
────ようやく理解した。
だからこそ彼らが来るのではなく、自分たちが招かれたのだと。
連中は自分たちを殺すことに本気になったのだ。
校舎からは出られない。
ここだって、いつまた形を変えるか分からない。
「……は、そうかよ。関係ねぇな、俺たちに逃げる気なんてねぇんだから」
「えー、カッコつけないでよ。いましがた逃げてたトコじゃん!」
祈祷師はけたけたと声を上げて笑うと、両手を広げて小首を傾げる。
「さあ、どうするー? 大人しく降参する? そこから飛び降りてみる? それとも、ボクに殺されたいかにゃ?」
「……!」
実際のところ、小春たちに余裕はなかった。
同じ土俵に立つこともできない相手を、どう倒せばいいのだろう。
こんなことでは、陰陽師と相見える前に全滅するのではないだろうか。
小春は両手を握り締めた。
確かに逃げ道はないけれど、仮にあったとしても逃げたって仕方がない。
どのみち、いずれぶつかる相手だ。
(……そう。“どうするか”じゃない)
やるしかないのだ。
ここへ乗り込んできた時点であとには引けない。
おもむろに小春は正面玄関の重いドアを閉めた。
毅然として振り向くと、祈祷師を睨めつける。
「どれもちがう。あなたたちを倒して、ゲームを終わらせる」
祈祷師は「へぇ」と意外そうに答えた。
「キミ、おバカさんだね。さっきの見たら、そんなの無理だって分かるでしょ?」
「無理じゃない。だって────」
銃口を構えると、その左肩目がけて光弾を放った。
先ほど冬真が樹枝を突き刺した位置だ。
ひゅっと走った光線に貫かれ、銃創から血があふれた。
「な……」
驚きからか、痛みからか、祈祷師の態度と自信が揺らぐ。
「小春、何して……。どうせすぐ治るだろ? 意味ねぇんじゃ────」
困惑しながら見比べるも、ふと違和感を覚えた。
案の定、その傷は塞がってしまったけれど、血が止まるまで先ほどよりも時間がかかったように感じる。
「やっぱり……」
小春は呟く。
冬真に貫かれたダメージが残っているのか、左腕の動きが鈍くなったように思えたのは気のせいじゃなかった。
見かけ上、傷は治ってもそのダメージは確かに蓄積しているのだ。
「わたしたちの攻撃が効かないわけじゃない。勝算はある」
「おお……。やるな、おまえ」
「……っ」
祈祷師は珍しく、ぎり、と悔しげに奥歯を噛み締めた。
けれど、すぐにいつもの軽薄な笑みを取り戻す。
「……だからなに? 結局、耐久値は反動がないボクの方が上。異能の精度もね」
ふいに足元で水飛沫が跳ねた。
轟音とともに渦を巻いた水柱が突き上がり、勢いよく小春たちに迫る。
「分からせてあげる。キミたちが所詮“ニセモノ”だってこと!」



