ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 しかし、寸前で避けられたせいで実際に貫いたのは左肩だった。

 一瞬、痛みに顔を歪めた祈祷師はすぐに樹枝を掴んだ。

 ぼうっと炎が燃え上がり、それはぱちぱちと弾けながらすぐに灰になってしまう。

「痛ったいなぁ、もう……。キミらさ、ボクの肩に恨みでもあるワケ?」

 すっと炎を消した祈祷師は、傷口を押さえながらおどけるように言った。

 すると、あふれていた血が止まり、みるみる傷が塞がっていく。

「!」

「そんな……っ」

 回復魔法とも少し異なっているように見えた。
 彼の能力で治癒(ちゆ)したというより、この空間がそうさせているようだ。

「ふふ、天界(こっち)ではボクら無敵なんでねー」

 そう言うと、ふと笑みを消す。

「トーマ、覚えときなよ。悪役(ヴィラン)は滅びる運命なの」

 冷ややかに告げると、流れるような動作で冬真の額に銃口(指先)を突きつけた。

 一発、光弾が撃ち込まれる。

「冬真くん!」

「冬真!」

 背中から床に倒れていった彼は、微動だにしない。
 即死のようだった。

 ()しくも琴音と同じ手段で命を落とす羽目になったわけだ。

 残酷かつ非道な所業を目の当たりにして、思わず祈祷師に非難の眼差しを向ける。

 既にこと切れた冬真からは興味を失ったかのように、彼は小春たちを眺めて笑っていた。

 まるで次なる獲物を吟味(ぎんみ)するかのように。

「……一旦、引こう」

 小春が静かに言う。

 想定外の出来事が立て続けに起こった。

 あんなふうに傷が瞬間的に治ってしまうのでは、戦ってもそれこそ勝ち目はない。

 とはいえ、傀儡やテレパシー、睡眠、時間操作といった異能は使えないようだった。
 使えるのなら、とっくに惨敗している。

「ほかのみんなのことも心配だし、態勢(たいせい)を立て直して────」

「小春!」

 ふいに突き飛ばされて驚きながら振り向くと、目の前を素早く光線が過ぎる。

 それは蓮の横腹を貫いた。

「痛……ってぇ」

「蓮……!」

「わたしが……っ」

 慌てた日菜が両手をかざすと、淡い光が宿ってみるみる()えていく。

 この程度、治すのもわけないはずなのに、呼吸が苦しくなった。
 蒼白な顔で垂れてきた鼻血を拭う。

「う……」

「だ、大丈夫?」

 そんな日菜の様子に戸惑うと、祈祷師が口元に笑みをたたえる。

「あーあ。キミ、結構“ガタ”が来ちゃってるみたいだね」

 どうやら雪乃の言った通りのようだった。

 紅(しか)り、大きな反動を伴う強力な異能は、使うほど劣化していく。

「その分だと、もうかすり傷程度の治癒でも血吐いちゃうんじゃなーい?」

「…………」

 日菜は否定しなかった。できなかった。
 けれど、その眼差しに迷いはない。

「心配ありません。わたしはみなさんを治すために来たんです。ためらいません……!」

「……悪ぃな、助かった」

「ごめん、わたし────」

 小春は思わず眉を下げる。
 自分のせいで蓮に怪我を負わせ、日菜を反動で苦しめた。

「そういうのはあとだ。引くなら急いで行くぞ」

 ふたりを促した蓮は走り出す。

 一瞬、小春は倒れている冬真に目を向けた。

 最後まで悪役(ヴィラン)に徹した彼だったけれど、だからといってその死が肯定的な意味を持つわけではない。

 それでも、守れなかったことを悔やむ時間も、死を(いた)む暇もなかった。

 ────足の速い蓮の先導で廊下を駆け抜けていく。
 振り向くことなく一直線に昇降口を目指した。

「もう少しだ……!」

 外へ出れば逃げるのも隠れるのも、校舎内より簡単になるはずだ。

 昇降口を抜けた蓮は正面玄関のドアに手をかけて、一気に力を込める。
 それは抵抗なく開いた。

「!」