ふと足元に転がる憎いふたりを見下ろした。
もう、巻き戻しはしない。
これで終わりだ。
手にしていた包丁の先を迷わず自身に向ける。
(あたしのやることはあとひとつ……)
────何度も繰り返し復讐を遂げた。
その凄絶な復讐劇に、幕を下ろすときが来たのだ。
「……水無瀬さん、ごめんね」
つ、と涙が頬を伝う。
それでも、自分の選んだ道に後悔がないことだけが唯一の救いだった。
強く柄を握り直すと、雪乃は振り下ろした刃を心臓に突き立てた。
◇
赤く燃えるような夕空が、足元に広がる水面に反射している。
連なる黄金色の錦雲の隙間から陽光が降り注いでいた。
不思議なことに、小春たちは鏡のような水の上に立っていた。
空に浮かんでいるようで、上下左右という感覚がなくなりそうだ。
「ここが天界か?」
「イメージとちがうなぁ。雲の上とかかと思ってたのに」
あたりにひとけはなかった。
奥(という言い方が正しいのか、距離感の概念もおかしくなる空間だけれど)に、玉座のような豪勢なデザインの椅子がひとつ見える。
誰からともなくそちらに進むと、瞬いた瞬間、ふいに風景が変わった。
「!」
「え、学校!?」
「しかも夜だ……」
深夜の名花高校、その廊下に立ちすくんでいる。
時間だけでなく、場所の概念も自分たちの世界とはちがうようだ。
ここはもう、何でもありの異空間。
「あ、来た来た~。やっと殺せる」
「あんたたち、相当なおばかさんみたいだね。自らのこのこ虎の穴に飛び込んでくるなんて……命知らずにもほどがある」
廊下の先の暗闇から姿を現したのは、霊媒師と呪術師だった。
鋭い緊張が走る中、奏汰が油断なく歩み出る。
紗夜と瑠奈もそれぞれ、注射器とステッキを構えた。
「蓮たちは行って」
彼女らを見据えつつ、奏汰が言う。
「日菜は小春たちについていけばいいから……」
「あたしたちなら平気だよ! 一瞬でかたつけてやる」
不安を飲み込むと、小春は強く頷いた。
「分かった。……またあとで」
「気をつけろよ」
「どうかご無事で……!」
きびすを返して駆け出した小春に、蓮と日菜も続く。
「…………」
冬真は人知れず白けた表情を浮かべながら、傀儡を伴って走った。
どこへ向かうべきかなんて分からないけれど、ただ遠ざかることだけを考えて駆け抜けていく────。
「はい、ストップー」
そんな暢気な声とともに、踏み出した足の一歩先で線状に炎が燃え上がった。
蓮は「危ね」ととっさに飛びのき、小春を庇うように立つ。
冬真と日菜も足を止めた。
現れた祈祷師は顎に手を当てながら、面白がるようにそれぞれを見比べる。
「ふーん、変な組み合わせだね。特にトーマっち、キミどういう風の吹き回しなの? ……なーんつって。見てたからぜんぶ知ってるケドー」
けらけらと笑う彼は本当に掴みどころがない。
「おまえ、余計なこと────」
「だったら、あのことも知ってるよね」
思わず制した蓮の言葉を遮って冬真は微笑む。
やけに親しげなふたりの様子に戸惑った。
「アノコト? 何のコト?」
「僕が記憶を取り戻したこと」



