ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜




 ────昼休みを迎えた。

 屋上に出ると、ほどなくして琴音が現れる。
 各々寄って地面に腰を下ろした。

「よし、そんじゃ聞かせてもらおうか。おまえは何の魔術師だ?」

 蓮はいつものように焼きそばパンを頬張りつつ、単刀直入に尋ねた。

「────“瞬間移動”」

 端的に答え、琴音は右手を掲げる。

「自分自身はもちろん、この右手で触れれば物体も瞬間的に移動させられる」

 小春はとっさに、なんて便利な能力なのだろう、と思った。
 誰もが一度は夢見る能力だろう。

「そっか。じゃあ、瑠奈は消えたんじゃなくて瞬間移動してたんだね」

「そうよ。昨日はあえて水無瀬さんにも姿を見せなかったの。驚かせてごめんね」

 瑠奈の意味ありげな態度を目にしたことがあった琴音は、前々から彼女を魔術師ではないかと疑っていたようだ。

 昨日、小春とのやり取りを耳にして密かにふたりを尾行していたらしい。

「悪いけど、念のためそのあとも水無瀬さんを尾行させてもらったわ。瑠奈のことは学校に飛ばしたけど、また戻ってきたら危険だったし」

「瀬名さんが謝ることなんてないよ。本当にありがとう」

「ああ、マジで助かった。……くそ、俺も油断してた」

 くしゃりと髪をかき混ぜる蓮。小春は慌てた。

「悪いのはわたしだよ。蓮に頼りきりだし、そのくせ勝手なことして……心配かけてごめん」

「おまえも謝るなって。そうしろっつったのは俺なんだから」

 蓮はそう言うと琴音に向き直る。

「しかし強ぇ能力だな。敵に出くわしても、触れるだけで勝ちじゃねぇか。それが無理なら、自分が瞬間移動すれば()けるし」

「そうね、怖いものなしよ。……って、言いたいところだけどそう甘くないわ」

 琴音は答えつつ、サンドイッチの包装を破った。

「異能を使うと反動があるのは知ってる?」

「そうなのか? そんなになるほど使ったことねぇから分かんねぇ」

「反動自体はすべての異能にあるの。でも、わたしの能力はそれが大きい」

 瞬間移動という能力が強力であるため、重大な反動を伴うことによりバランスを調整している、ということなのだろうか。
 かなりゲームっぽい話になってきた。

「向井の言うように、敵に出くわしたとき、瞬間移動は確かに強力。でも、敵にはやられずとも自滅する可能性の方が高いの。反動によってね」

 強力ではあるが、万能ではないということだ。
 その大きな反動というものが、琴音の弱点なのだろう。